土星の衛星イアペトゥスの形成に新説

2010.10.15
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NASAの土星探査機カッシーニが撮影した土星のクルミ型衛星イアペトゥス。

Image courtesy NASA
 土星には、クルミのような不思議な形をした衛星イアペトゥスが存在する。その形をめぐってさまざまな議論が巻き起こったが、最新の研究によると、土星を周回するイアペトゥスが“ちょうどいい”距離を保っていることが鍵を握るという。イアペトゥスはかつて高速で自転する岩と氷の塊だったが、自転速度が遅くなる際、奇妙な“山脈”を生み出すのにちょうど適した場所に位置していたというのだ。 一般的に、惑星の周囲で破片が集まって形成される衛星は、周回天体となる際に破片の動きの影響で自転するようになる。これは、惑星に捕らえられて衛星になった場合とは異なる。

 土星のほかの衛星は球形や楕円形だが、イアペトゥスはわずかにつぶれた個性的な形をしており、赤道付近を1周するように標高13キロの山脈が走っている。まるで、クルミの殻の合わせ目のように隆起しているのだ。

 この不思議な地形に関しては、これまでに「プレートテクトニクスや火山の影響で生まれた」といった説が出されている。しかし、研究チームの一員でカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)のミハイル・クレスラフスキー氏は、「そのようなモデルでは尾根の幅が広くなり、1本の細長い山脈は形成されない」と指摘する。

 そこで、クレスラフスキー氏は同じUCSCのフランシス・ニモー氏と協力し、新しいモデルを構築した。試算してみると、イアペトゥス形成時の土星との距離は、初期の速い自転速度を成長後にも大部分維持できるだけ離れていたと示された。なおかつ、将来は土星の重力に影響され、最終的に今の自転速度に落ち着く程度の距離でもあったという。

 クレスラフスキー氏らのモデルは、「小惑星66391」として知られる高速で自転する小型小惑星をベースに構築されている。この小惑星はイアペトゥスと同じように赤道付近が隆起しており、太陽系内の天体で同様の地形はほかに見つかっていない。

 今回のモデルによると、かつて高速で自転していたイアペトゥスでは、赤道付近の強い遠心力によって構成物質が引きずられ、宇宙空間に放り出されそうになっていた。

「ただし、赤道付近では重力と遠心力がほぼ釣り合っていた」とクレスラフスキー氏は話す。したがって、遠心力で表面の物質は赤道に向かってずれて隆起するが、釣り合う重力によってそこに留められることになる。

 モデルによれば、この現象が小惑星66391で現在起きているという。ただし、66391は直径がわずか1.5キロであり、自転速度も1周2.8時間である。直径が1500キロあるイアペトゥスのような大きさの天体が同じような理屈で山脈を生み出したとすると、初期の自転速度は1周4~6時間となる。

 現在のイアペトゥスは土星に対して潮汐固定(重力の影響で自転周期と公転周期が同期する現象)が起きている。79日かけて公転する間に1回の自転を完了するため、常に同じ面を土星に向けている。潮汐固定を生み出す互いの重力により、かつて高速で自転していたイアペトゥスもしだいに遅くなり、空飛ぶ円盤のような形から球状体に落ち着いたと考えられる。

 その後も細長い隆起は残った。イアペトゥスの地殻にその重さを支えるだけの厚みがあるためだとモデルでは示された。「自転説は、なぜイアペトゥスだけに隆起があり、ほかの衛星にはないのかを説明できる」とクレスラフスキー氏は述べる。

 アメリカのミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学の惑星科学者ウィリアム・マッキノン氏は、今回の研究を受けて次のようにコメントする。「あり得ない話ではないが、重力によって現在の隆起が形作られたのであれば、とてつもなく大きな力が働いたことになる。考えられる限り最大の地質構造変化であり、実際にあったのなら驚くほかない」。

 今回の研究成果は、10月上旬にアメリカのカリフォルニア州パサデナで開催されたアメリカ天文学会惑星科学分科会(DPS)で発表された。

Image courtesy NASA

文=Richard A. Lovett

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