土星衛星タイタンに生命の構成物質か?

2010.10.12
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土星の衛星タイタンの北半球にある湖、クラーケンの海が太陽の光を浴びて輝いている。2009年7月に土星探査機カッシーニが撮影した。

Picture courtesy NASA/JPL/University of Arizona/DLR
 地球上の生命の設計図DNA(デオキシリボ核酸)が、土星最大の衛星タイタンにも存在するかもしれない。このことは、初期地球の地表に広がっていた“原始スープ”で育まれた生命の構成要素は、大気中でも生成されていたことを示している。 今回実験を行ったのは、アリゾナ大学月惑星研究所(Lunar and Planetary Laboratory)の大学院生サラ・ヘルスト氏らの研究チーム。濃密なもやが立ち込めるタイタンの大気を再現した室内実験から、タンパク質の元となる数種類の単純アミノ酸のほか、DNAやRNAの構成要素である5種類のヌクレオチド塩基が含まれる可能性があると結論付けた。

 もっともヘルスト氏も指摘しているように、地球上の鳥や魚、微生物などがタイタンにも生まれるということではない。同氏は次のように話す。「さまざまな観点から判断すれば、たとえタイタンに生命が存在したとしても、それらを構成する物質の分子組成は地球上とは異なるだろう」。何よりもタイタンの平均気温は、マイナス180度と地球よりもはるかに低い。

「また、地球上の生命は水を拠りどころとしているが、タイタンの地表面に液体の水は存在しない」。タイタンには湖がいくつもあるが、満たしているのは液体メタンと考えられている。

 同チームが今回の研究結果から導いた仮説はタイタンに関するものではなく、地球上の生命を構成する要素の一部が大気物質に由来したのではないかというものである。初期の地球表面に広がっていたと考えられている“原始スープ”に加えて、大気中に充満していた“原始のもや”も生命誕生の源である可能性を示唆している。

「今回の結果が興味深い理由の1つは、タイタンの大気研究で、同じような大気から生成され得る分子の種類を特定できる点にある」とヘルスト氏は話す。

「タイタンではそうした分子が現在も生成されているが、現在では初期地球の大気中にタイタンと同じようなもやが存在していたことを示す証拠は多数見つかっており、多くの太陽系外惑星でもタイタンと同じような化学反応が起こっている可能性は高い」。

 今回行われた室内実験は、2004年から土星系の観測を続けているNASAの土星探査機カッシーニによって最近発見された事実が基礎となっている。

 タイタンの大気中に充満している窒素およびメタンなどの炭化水素から成るもやは、土星の衛星エンケラドスから酸素イオンが絶えず供給されている。エンケラドスは比較的タイタンの近くに位置する土星の衛星で、南半球からは間欠泉のような水蒸気とガスの噴出が確認されている。

 ヘルスト氏によると、タイタンの大気圏表面(高度1000キロ付近)には、非常に重い分子が存在するという。「これは誰も予想しなかったことであり、その原因もよくわかっていない。だが、カッシーニがタイタンにフライバイ(接近通過)するたびに、それが事実であるというデータが得られる」。

 そこで同チームは、タイタンの大気中に充満するもやに酸素が供給されると、どのような種類の分子が生成されるのかを特定しようと考えた。まず実験室でタイタンの大気を再現し、タイタンの大気が太陽光から受けるものと同等のエネルギーをそれらの分子に付加した。

 さらに、アミノ酸やDNA塩基など生成が期待される分子の一覧表を作成し、実験から得られた実際のデータとその一覧表をコンピュータープログラムで比較した。

 ヘルスト氏はこのときのことを次のように振り返る。「作成した一覧表をコンピューターに読み込んでプログラムを実行し、いったんその場を離れた。しばらくして戻ってみると、検出された分子の名前が一覧表にすべて出力されていた。だがすぐに疑念がわいてきた。期待どおりの結果を目の当たりにした科学者は、その性分として何か間違いを犯しているかもしれないと自分を疑うものだ。そこでもう一度同じ実験を行い、データを手作業で確認した。目の前にあるのは先ほどと同じ結果だった」。

 ただし今回の実験結果から、タイタンにもこれらと同じ分子が存在すると結論付けるのは早計だとヘルスト氏は指摘する。「タイタンの大気を実験室で完璧に再現することは不可能だ」。だが、タイタンの大気中に充満するもやの中でヌクレオチドやアミノ酸が実際に生成されているとすれば、初期地球の大気中でもこれらの分子が生成されていた可能性は否定できない。

 いずれにせよ、生命を構成する分子がタイタンに存在することを証明するには、より高感度の機器を用いた探索を新たに行う必要があるだろう。

「すべては、タイタンでの正確な観測作業にかかっている。それまでは、実験室で化学反応の実験を繰り返す日々が続きそうだ」とヘルスト氏は結んでいる。

Picture courtesy NASA/JPL/University of Arizona/DLR

文=Victoria Jaggard in Pasadena, California

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