地上の原子時計で相対性理論を確認

2010.09.24
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オーストリアのメルク修道院にあるらせん階段(資料写真)。

Photograph by Keenpress/National Geographic Stock
 階段を高い位置まで登ると、階段下の人に比べてわずかに老化が早まるという。一体どういうことだろうか。 最近アメリカの研究チームにより、アインシュタインの相対性理論が主張する時間の歪みの効果が、初めて地上で確認された。冒頭に述べたことは、この実験結果から導き出された事実である。

 アインシュタインの特殊相対性理論によると、各物体の時間の進み方は一定ではなく、その速度に応じて変化する。具体的には、観測者から遠ざかるように移動する時計は、観測者に対して静止している時計よりも進み方が遅くなる。

 それでは、双子の一方が地球に留まり、もう一方が高速のロケットに乗って宇宙を飛行したあと地球に帰還したとすると、両者の年齢は果たしてどうなるだろうか。結果は、前者よりも後者の方が若くなる。これが「双子のパラドックス」と呼ばれる有名な思考実験である。

 また一般相対性理論では、重力によっても時間の進み方が変化するとされている。 この研究に参加したアメリカ国立標準技術研究所(NIST)のジェームズ・チンウェン・チョウ(James Chin-Wen Chou)氏の説明によると、「重力が大きいほど時間はゆっくりと進む」のだという。

 速度や重力の影響で時間の進み方が遅くなることは、地上設置の時計と、はるか上空を飛行する宇宙船や人工衛星(GPS衛星など)に搭載した時計との比較実験によって確認されている。

 今回の研究では、こうした時間の遅れが地上でも観測できることが初めて明らかになった。

 地球が物体に及ぼす重力(引力)は、その物体が地球の質量中心に近いほど大きい。したがって質量が同じであれば、大気中に浮遊する物体よりも地表面の物体の方が、地球から受ける重力はわずかながら大きくなる。

 チョウ氏らの実験には、超高精度のアルミニウム原子時計が使用された。2つの原子時計のうち一方を約30センチ上へ持ち上げ、両者に作用する重力の大きさを変えたところ、持ち上げた方の原子時計の進み方が若干速いことが確認された。

 また別の実験により、時計内部で時を刻むアルミニウム原子に対する相対論的な効果も測定した。

 原子時計では、帯電した原子のエネルギーレベルが変化する際に放出・吸収される電磁波の振動数(周波数)に基づいて時間が計測される。

 研究チームは、2つの原子時計のうち一方のアルミニウム原子を静止したままにし、他方のアルミニウム原子にはレーザー光を当て振動するようにした。その結果、アインシュタインの理論どおり、原子が運動する原子時計の方が時間の進み方がわずかに遅くなった。

 ただ、こうした時間の遅れはあまりに微小であるため人間が直接知覚できるようなものではない。NISTによると、平均寿命近くまで生きた人でも、一生の間で生じる時間の遅れは900億分の1秒程度だという。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者ダニエル・クレップナー氏は今回の研究結果を受け、「相対論的な効果を利用しても、長生きできる訳ではない」とコメントした。

 さらに同氏によれば、研究結果は既に広く認知されている相対性理論に即したものであり、特に目新しい事実はないという。

「注目すべきはむしろ、原子時計の驚異的な精度の方ではないか」とクレップナー氏は話す。今回の実験に使用されたような超高精度の原子時計に更に改良が加えられれば、物理測地学の分野ではいずれ地球の重力場を極めて高い精度で計測できるようになるだろう。

 物理測地学は、地球の質量分布を計算する上で重要な役割を果たす学問分野であり、その応用として地球上に存在する水の分布や循環のしくみなどを特定することもできる。

「こうした時計を世界各地に設置してそれぞれの時間を比較できるようになれば、物理測地学は革命的な進歩を遂げるに違いない」と、クレップナー氏は期待を語った。

 今回の研究結果は「Science」誌の9月24日号に掲載されている。

Photograph by Keenpress/National Geographic Stock

文=Ker Than

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