体内に胎児を宿したイエローベリー・スリートード・スキンク(学名:Saiphos equalis)。体の中央部に球状の胚がうっすらと透けて見える。

Photograph courtesy Rebecca A. Pyles
 オーストラリアに住むあるトカゲは、卵を産む卵生から子どもの状態で出産する胎生へ移行しつつある。この現在進行中の“進化”の様子をとらえた研究が発表された。 オーストラリア、ニューサウスウェールズ州の海岸沿いの温暖な低地に生息するトカゲのイエローベリー・スリートード・スキンクは産卵によって繁殖する。しかし、同じ種でも州内の寒冷な山岳地域に生息する個体は、ほとんどが卵ではなく子どもを生む。

 このトカゲの他に卵生と胎生の両方の繁殖形態をとる現存種の爬虫類は、スキンク科のトカゲ1種とヨーロッパに生息する別のトカゲ2種のみである。

 これまでの進化の過程では100近い系統のトカゲが、他の種と交わることなく繁殖形態を卵生から胎生へと変化させ、現存するヘビとトカゲの約20%が胎生のみで繁殖している。

 しかし、この研究の共著者でイーストテネシー州立大学の生物学者ジェームズ・スチュワート氏は、現存する胎生の爬虫類の存在は、長い進化の歴史のごく一部を垣間見せているにすぎないという。したがって2つの生殖形態をとるイエローベリー・スリートード・スキンクは貴重な研究材料といえる。「異なった進化の過程にある個体群の差異を研究することによって、一つの生殖形態から別の形態への移行がどのように進むのかを解明する端緒となる」。

 爬虫類が卵生から胎生へ進化を遂げる過程における謎のひとつが、胎児がどのように栄養を摂取するかという点だ。

 哺乳類では、特殊な機能を持つ胎盤が胎児を卵巣の壁へとつなぎ、母親の血液から酸素と栄養素を摂取して老廃物を母親の血液に戻す。卵生の生物の場合は、胚は卵黄から栄養分を摂取するが、多孔性である卵殻から吸収されるカルシウムも重要な栄養源となっている。魚類や爬虫類のなかには卵生と胎生の中間の繁殖形態をとり、胚の発育の最終段階まで体内に卵を保持するものもある。

 このような卵胎生の場合、胚が呼吸できるように卵殻は非常に薄くなり、胎児はその名残りである薄い膜で覆われた状態で生まれてくる。

 しかし、このような繁殖形態には栄養面での問題が生じる可能性もある。殻が薄ければカルシウムも少ないため、生まれた子はカルシウムが不足している可能性があるからだ。

 長年に渡りスキンク科のトカゲを研究しているスチュワート氏と彼の研究チームは、イエローベリー・スリートード・スキンクの子宮の構造と化学的特性を研究して、栄養の問題の手がかりを得たいと考えた。

「研究の結果、このトカゲの子宮がカルシウムを分泌し、それが胚に取り込まれるようになることを突き止めた。これは基本的に、爬虫類が胎盤を持つように進化する過程の初期段階にあたる」とスチュワート氏は説明する。

 この2つの繁殖形態にはそれぞれ進化の過程で代償を払うことになる。卵は厳しい気象条件や捕食動物など外部からの脅威に弱く、胎児は母体への負担が大きい。

 気候が温暖な地域に生息するスキンク科のトカゲのメスは、卵が孵化する直前の週に卵を地面に産みつけることで母体を保護しようとするだろう。一方、気候が厳しい山岳地帯に生息する同種のトカゲは、子供を保護するために体内に長く留めておくのかもしれない。少なくとも長い歴史の上では、卵生から胎生への移行は爬虫類ではよくみられることをこの研究結果は示している。このような進化は比較的簡単に起こるとスチュワート氏は語る。「これは非常に複雑な変化と考えがちだが、場合によっては予想よりずっと単純かもしれない」。

 スキンク科のトカゲの進化に関する研究は、2010年8月16日に「Journal of Morphology」誌オンライン版に掲載された。

Photograph courtesy Rebecca A. Pyles

文=Brian Handwerk