C60フラーレンを宇宙で発見

2010.07.26
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星雲から放出された宇宙最大とみられる分子C60フラーレン、通称「バッキーボール」の想像図。

Image courtesy T. Pyle, NASA/JPL
 サッカーボールのような形の結晶構造を持つ炭素の同素体C60フラーレン、通称“バッキーボール”が、スピッツァー宇宙望遠鏡の科学者チームによって宇宙ではじめて確認された。C60フラーレンは1985年に発見されて以来、宇宙での存在を予想する研究者がここ40年ほど探し続けていた。 フラーレンは炭素原子60個が安定した空洞の球体を構成したクラスター(集合体)で、まるでサッカーボールのような形をしている。直径わずか10億分の1メートルだが、宇宙ではこれよりも大きな分子は見つかっていない。

 フラーレン構造は1970年に最初の理論が公表され、実際に発見されたのは1985年、炭素が豊富な高齢の星の大気状態を再現する実験中だった。

 高名な建築家バックミンスター・フラー設計のドーム状建築物「ジオデシックドーム」に分子構造が似ていたため、発見者はその名にちなんで「バッキーボール」と名付け、グラファイトとダイヤモンド以外の炭素同素体の発見者としてノーベル賞が贈られた。

 フラーレンはそれ以来、隕石や地球の岩石、ろうそくのススからも見つかっている。また、ナノテクノロジーの技術者はこの同素体の構造を応用して強度が高く軽量なカーボンナノチューブを開発し、自転車のフレームやテニスラケットに応用しているという。現在では、超電導素材や体内の薬物伝達に利用する研究がさかんに行われている。

 地上では身近になりつつあるが、宇宙では科学者の予想に反し行方不明の状態が数十年間も続いていた。

 研究責任者でカナダのウェスタンオンタリオ大学の天文学者ジャン・カミ氏は、「地球上で最も安定した耐久性のある結晶構造の一つだから、宇宙にも存在すると考えられてきた。だが、これまではその証拠が見つからなかった」と話す。

 しかし研究チームはこのほど、ついにその証拠を惑星状星雲「Tc-1」で発見した。惑星状星雲とは、恒星が一生を終えた後に残された星間ガスとちりの雲である。

 Tc-1には水素が極めて少ない。フラーレンの形成には適しているが、水素の豊富な宇宙ではめずらしい環境だった。炭素と結合しやすい水素が豊富にあると、炭素のみのフラーレンは形成されにくい。

 惑星状星雲Tc-1の元になった恒星は、はるか昔に外層の水素を失っている。しかし最近になって、残存炭素が放出されるという奇妙な現象が起きたために、フラーレン分子が形成されることになった。

 また、カミ氏のチームの発見には、ちょっとした幸運も重なったようだ。フラーレンの温度がスピッツアーの観測に理想的で、この分子が放つ赤外線を検出できたという。恒星から炭素が放出されてから100年ほど経過しており、温度は室温程度に下がっていたのだ。「あと1世紀もたてば、分子は恒星からさらに漂って離れてしまい、さらに温度が下がって赤外線望遠鏡では検出できなくなるだろう」とカミ氏は話している。

 同氏によると、宇宙でのフラーレン発見によって星間空間の化学組成解明が進む可能性があるという。特に注目されるのは拡散星間バンド(DIB:diffuse interstellar band)の問題だ。DIBは天体から来る光のスペクトルに存在する未解明の吸収線である。

 例えば、星からの光をスペクトル分解すると、分子によって吸収しやすい波長がそれぞれ異なるため、その光源の星の大気に存在する化学物質の種類がわかる。また、星からの光の一部が地球到達前に他の物質に吸収されると、その部分がDIBとしてスペクトルに現れる。

 科学者の間ではDIBの吸収物質について活発に議論されており、宇宙分光学で最大の問題の一つとなっている。そこで今回、巨大で複雑な構造体フラーレンが宇宙で確認されたため、吸収物質の候補として注目が集まっている。「フラーレンが宇宙に存在すると証明されたからには、DIBとの関係性をはっきりさせたい」とカミ氏は話す。 今回の研究は「Science」誌7月23日号に掲載されている。

Image courtesy T. Pyle, NASA/JPL

文=Brian Handwerk

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