世界最古の革靴、アルメニアで発見

2010.06.10
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アルメニアで見つかった世界最古とされる革靴。

Photograph courtesy Gregory Areshian
 アルメニアの洞窟で2008年に発見された革靴が、世界最古の革靴であることが2010年6月9日に確認された。しかしこの靴のデザインは、靴デザイナーとして世界的に有名なマノロ・ブラニク氏が感心するほど非常に現代的だ。 靴の中には、断熱材として、あるいは型崩れを防ぐために詰められたと思われる草が入っている。ネイティブアメリカンが履いていた革製の袋状の靴モカシンに似たこの靴は約5500年前のもので、アルメニアにある洞窟の発掘調査で見つかった。大量のヒツジの糞の中に埋もれていたため、奇跡的に保存状態が良好だった。

 靴の大きさは現在のアメリカで言う女性用の7号(24センチ)とほぼ同じで、この靴の持ち主の右足に合わせて作られたと思われる。ただし、この時代のアルメニア人の足に関する確実な情報が不足しているため、この持ち主が男性なのか女性なのかはわからない。

 また、この靴は1枚の牛革から作られているが、この技法は現代では“一枚甲”と呼ばれ、高価な靴で用いられることがある。さらに、靴の前後の縫い目には革ひもが通されている。

「革は2層に切断してなめしたもので、おそらく当時は最新の技術だったのだろう」と、アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークのロン・ピンハシ氏は話す。同氏は発掘チームの共同責任者で今回の研究の筆頭著者である。

 また、イギリスでオーダーメイドの靴を手がけるコンカー社の靴職人イベット・ウォロル氏は、「最初に皮を湿らせてから、切り抜いて足に当て、足を靴型として使ってその場で縫い合わせたのではないか」と推測する。

 こうしてできた靴は古代の靴にもかかわらず、ブラニク氏だけでなく誰が見ても現代の靴と驚くほど似た仕上がりになっている。「まず印象的だったのは、“オパンケ”というバルカン半島の伝統的な履物にとてもよく似ていることだ。オパンケは今でも祭りの際にこの地方の伝統的な衣装の一部として着用されている」と、カナダのトロントにあるバータ靴博物館のエリザベス・セメルハック館長は話す。

 放射性炭素の分析から、この靴はアルメニアの銅器時代に当たる紀元前3500年頃のものと判明した。この先史時代の靴は、数千年の年月を経てかかと部分とつま先部分が押しつぶされているが、摩耗した様子はまったくない。

 通常、皮や植物などの素材は非常に短期間で劣化するため、この時代の履物が見つかることは非常に珍しい。しかし今回の場合、“アレニ1”と名付けられた洞窟内の穴に入っていたこの靴などの内容物は、銅器時代にその洞窟に住んでいた人々が姿を消した後、洞窟内に積もった何層ものヒツジの糞に封じ込められた。「洞窟の中は涼しく乾燥した状態が保たれており、その間に穴の中の遺物は糞で固定された」とピンハシ氏は述べる。

 人類が靴を履き始めた大きな理由の1つは足を保護するためと考えられており、今回見つかった世界最古の革靴もそのために作られたと見て間違いなさそうだ。

 この洞窟の周囲は「非常に起伏の激しい地形で、先の尖った石や刺だらけの低木がたくさんある」と、カリフォルニア大学の考古学者で研究の共著者グレゴリー・アレシャン氏は説明する。同氏は、ナショナル ジオグラフィック協会の研究・探検委員会から資金の一部の援助を受けている。

 さらに、このような靴を履けば、夏は摂氏45度、冬は氷点下というこの地域の過酷な気温に耐えて長い距離を歩けるようになったことだろう。「彼らは長距離を歩いていた。洞窟の中で黒曜石が発見されたが、これは少なくとも120キロ離れた地点から持ち込まれたものだった」とアレシャン氏は明かす。

 一方、靴デザイナーのブラニク氏はこの靴について、デザインはシンプルだが実用的な理由だけではなくファッションとしても履いていたのではないかと推測する。「この靴が足を保護する役割を果たすことは間違いないが、自分が特定の部族の一員であることを靴のデザインによって示したのではないか。自分たちを他の部族から区別するために、同じ部族の人たちが身に付けていたものの1つだと思う」。

 つま先が覆われた最古の靴としてこれまで知られていたものは、1991年にオーストリアのアルプスで発見された、“アイスマン”の異名も持つミイラ“エッツィ”が履いていたものだ。

 また、サンダルはもっと古いものが見つかっている。最古の発掘例は、ミズーリ州中部のアーノルドリサーチ洞窟で発見された7000年以上前のものだ。

 しかし、靴を履く習慣がこれらの靴よりも前の時代に始まったことはほぼ間違いない。例えば、つま先の小さな骨が軟化した4万年前のヒトの化石が発見されており、これは靴が登場した証拠とされている。

 エッツィの靴と比べると、今回見つかった世界最古の革靴はもっぱら実用本位だと指摘するのは、イギリスを拠点にエッツィを研究しているフリーの考古学者ジャッキー・ウッド氏だ。

「アイスマンの靴はこれとはまったく違う。靴の土台部分にはヒグマの皮、側面にはシカの皮が使われていた。また内側は、樹皮のひもで作った網が足を囲むようにしっかりと縫いつけられていた。これとは対照的に、アルメニアの靴には必要最低限のものしかなく、裸足で歩き回るのをやめた人間が世界中で作っていた靴ではないだろうか」。

 確かに、他の場所でも年代の異なる同様の靴が見つかっている。しかしピンハシ氏とアレシャン氏によると、この靴のスタイルはアルメニアで生まれたと考えるのが妥当だという。「ろくろを使った陶器の制作、くさび形文字、羊毛の生産など、他の多くの発明が古代の近東を発祥の地としている。したがってこのアルメニアの靴は、後にヨーロッパに広まることになる靴の“原型”が生まれた場所を示す最古の手がかりかもしれない」。

 もしそうであれば、現在の靴のデザインは、このアルメニアの靴から間接的に影響を受けた可能性がある。「この靴が北米のモカシンの前身だったという説には疑いがない。モカシンは今や人気のデザインとなっており、その影響は、デッキシューズやスリッパ風の柔らかい男性用シューズといった現代の靴にも見られる」と、イギリスにあるノーサンプトン博物館・美術館で靴の歴史を研究するレベッカ・ショークロス氏は話す。

 この研究はオンラインジャーナル「PLoS ONE」誌で2010年6月9日に公開された。

 この発掘調査は、ナショナル ジオグラフィック協会、チトジアン財団(ロサンゼルス)、ジョー・グフォエラー氏のグフォエラー財団、シュタインメッツ・ファミリー財団、ブークエバー財団、コッツェン考古学研究所の資金援助を受けている。

Photograph courtesy Gregory Areshian

文=Kate Ravilious

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