ヒトの体内に食い入る“ヒルの暴君”

2010.04.20
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新種のヒルの前吸盤。ここには写っていないが、血液を吸う時にはこの開口部から大きな歯が現れる。

Photograph courtesy PLoS ONE
 ジャングルに新たなヒルの王が誕生した。最新の研究によれば、ペルーのアマゾン地方の奥地で新種のヒルが発見され、“ヒルの暴君”を意味するティラノブデラ・レックス(Tyrannobdella rex)と命名された。 まず研究チームを当惑させたのは、体長7センチほどのこの吸血動物が、名前の由来である恐竜のティラノサウルス・レックスと同じように大きな歯を持っていたことだ。“T・レックス”ヒルは、その歯を利用して哺乳動物の眼や尿道、直腸、膣など体の開口部の組織を切り裂いて入り込む。

 また、研究の共著者でニューヨークにあるアメリカ自然史博物館の無脊椎動物学担当の学芸員マーク・シッダール氏によれば、この新種の生殖器はかなり小さいという。ほとんどのヒルは生殖器が体の大部分を占めており、「繁殖の成功は生物にとって重要なことなので、これは理にかなっている」。しかし理由はわからないが、この新種のヒルの生殖器は長さが0.5ミリ程度しかない。これは、このヒルの神経索よりも小さく、多くのヒルの生殖器の10分の1しかない。「大きな歯がそれを補っているとは論文に書かなかったが、そんなことも頭をよぎったよ」と、シッダール氏は冗談を交えて語る。

 このヒルが最初に確認されたのは、ペルー中部のチャンチャマヨ郡に住む少女の鼻から2007年に取り出された標本だった。現地の医師が標本をシッダール氏の研究チームに送ったが、研究チームはこのヒルが当時正しいとされていたヒルの系統図のどこに当たるのかを特定することができなかった。

 研究チームによる2年間の実地調査の結果、このヒルは、哺乳動物の粘膜に吸いつくという特徴を持つ世界中に分布するヒルのグループに属することが判明した。ヒルの系統図の見直しを迫るこの発見は、各大陸がパンゲア大陸と呼ばれる1つの陸塊だったジュラ紀(1億9960万~1億4550万年前)後期にこれらのヒルの共通の祖先が生息していた可能性を示している。

 人間が“T・レックス”ヒルに出会うのは川や湖で泳いている時が多い。シッダール氏によれば、体内に侵入しても通常は死に至るほどではないが、体内に数週間とどまり窒息を引き起こす可能性もあるという。

 皮肉なことに、この凶暴なヒルが人間の命を救う可能性を秘めているのだ。シッダール氏の研究チームは、血栓の発生を抑える抗凝血剤の開発のためにヒルを研究している。ヒルは100年以上に渡ってさまざまな医療法で治療に使われてきた。新種のヒルの発見により、ヒルの唾液に含まれる有効成分についての理解が深まることが期待される。

 同時に、希少であると予想されるヒルの発見は、アマゾンの森林伐採という“信じがたいほどの脅威”によって生物が失われる可能性がいかに高いかをも浮き彫りにするとシッダール氏は指摘する。「(SF作家で環境保護活動にも熱心だった)ダグラス・アダムズなら、“パンダと松の木ばやしだけの惑星にしたいのか”と言ったことだろう。どんな生物が滅びても地球は冷たく寂しい星に一歩近づいてしまうのだ」。

 この研究はオンラインジャーナル「PLoS One」誌で2010年4月14日に公開された。

Photograph courtesy PLoS ONE

文=Christine Dell'Amore

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