臨死体験の原因は血中の二酸化炭素?

2010.04.08
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臨死で体験するまぶしい光や天使の声は、血中で過剰となった二酸化炭素が原因だとする研究結果が発表された。写真は心臓切開手術の様子(資料写真)。

Photograph by LM Otero, AP
 臨死体験は、血流中の二酸化炭素の度が過剰に高まることが原因で起こる幻覚症状である可能性があるとする研究が発表された。 生死にかかわる重傷を負いながらも生還した人々の中には、今までの人生が走馬灯のように駆け巡った、まぶしい光を見た、魂が肉体から離れた、天使を見た、死んだ家族や友人に会った、などの経験をした人が大勢いる。

 そこで研究チームは、血液ガスの主要構成要素である酸素や二酸化炭素の濃度の違いが、臨死体験という不可思議な現象が発生する一因となっていないかを調査した。調査は、ある3カ所の総合病院のいずれかに心臓発作で運び込まれ、後に蘇生した患者52人を対象に行われた。

 心停止から蘇生までの間、血液循環と呼吸が停止すると、二酸化炭素など血液ガスは濃度が上昇するものと下降するものに分かれる。研究チームのメンバーで、スロベニアにあるマリボル大学のザリーカ・クレメンク・ケティス氏は、「臨死体験をした患者は、体験しなかった患者に比べて、血中の二酸化炭素濃度が著しく高かったことがわかった」と話す。

 臨死体験をしたと報告した患者の間で、二酸化炭素以外に、性別、年齢、宗教、あるいは蘇生までにかかった時間などの要素で共通するものはなかった。心臓発作の後に体験する臨死は、救命治療時に投与された薬品によるという説もあるが、今回の研究では、薬品とは関係ない可能性が大きいとしている。

 二酸化炭素が実際に脳にどのように作用して臨死体験が起きるかについての解明は、今回は研究範囲に含まれていなかったため、「その正確な病態生理的メカニズムは今のところ不明だが、大量の二酸化炭素を吸い込んだ場合や高度の高い場所では、血中の二酸化炭素濃度が上昇し、臨死体験に似た症状が現れることが知られている」とクレメンク・ケティス氏は語っている。

 ロンドン大学特異的心理学研究部門の心理学者で研究に参加していないクリストファー・フレンチ氏は、この研究は血液中の二酸化炭素と臨死体験との直接的な関連性を見出した初めての研究の1つだと評価する。同氏は電子メールでの取材に対し、「血液中の二酸化炭素濃度が異常に高くなる高炭酸ガス血症が身体にもたらす影響が、今で言う臨死体験とよく似ている」ことを発見した1950年代の実験結果を、今回の入院患者を対象とした研究は裏付けていると答える。

 また同氏によると、何らかの原因で脳が脱抑制され、衝動を制御する脳の機能が損なわれることで臨死体験のような感覚が生じることがあるという説が、今回の研究でも裏付けられるという。脳の物理的損傷、薬物の使用、意識障害や幻覚症状はすべて脱抑制状態を伴うことがわかっており、血液中の二酸化炭素濃度の過度の上昇も脱抑制を引き起こす可能性がある。

 ただ、この説を疑問視する意見もある。キングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所の精神神経科医ピーター・フェンウィック氏は、「二酸化炭素が臨死体験の原因だとする説の問題点の1つは、心肺停止状態では必ず二酸化炭素の濃度が上昇するにもかかわらず、臨死体験はその患者の10%にしか見られないことだ」と指摘する。さらに、心臓発作の患者には「臨死体験のような明瞭な体験はもちろん、意識を保つような一貫した脳活動は一切見られない」。

 ロンドン大学のフレンチ氏は主な代替仮説として、「臨死体験は脳の物理的基底から意識が分離する証拠であり、死後の世界を垣間見ているとも言えるかもしれない」との説を挙げる。ただし、「少なくとも今回の研究結果はこのような仮説に大きく反するようだ」。

 この研究は2010年4月8日発行の「Critical Care」誌に掲載されている。

Photograph by LM Otero, AP

文=James Owen

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