リベラル志向や無神論は進化の結果?

2010.03.05
アメリカ、ワシントンD.C.にある国立アメリカ歴史博物館で展示されている投票機のアップ写真。

Photograph by Scott J. Ferrell, Congressional Quarterly via Getty Images
 保守派かリベラル派か、知能の進化具合が違いをもたらしている可能性があるようだ。最新の研究によると、人類の進化が進むと、因習打破主義に向かっていく傾向があるという。 イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の進化心理学者で今回の研究を行ったサトシ・カナザワ氏は、「知性や宗教心、浮気心の強弱はすべて知能の進化に関係している」と話す。

 カナザワ氏は自身の理論を次のように説明する。「知能、特に現場で即座に問題解決や推論を行う能力は、突然の森林火災など特異で予期していない出来事に対処するために、進化的適応の結果として獲得されたものだ」。

 森林火災のような災害は日常生活では稀なので、人類の祖先が生まれつきその対処法を知っていた可能性は低い。災害時に生き延びるためには、新たな行動様式を考え出す能力と実際に試す意志が必要になる。

「高い知能の証しとなるこの2つの特質は遺伝し、非伝統的な社会的価値を選ぶ傾向として表れる」とカナザワ氏は話す。

 逆に言えば、ハイレベルの知識階級は常識や旧態依然とした考え方にとらわれない特性を受け継ぎ、比較的新しい社会的価値や行動様式を受け入れる可能性が高くなるという。例えば、リベラル思考、無神論、夜型の生活、男性にとっての一夫一婦制などが該当する。

 カナザワ氏は、「この志向は、頭の良い人の脳が新しい状況にうまく適応しようとする結果、生じるものだ」と話す。

 カナザワ氏が研究で採用したのは、全米青少年長期縦断的健康状態研究(Add Health:National Longitudinal Study of Adolescent Health)のデータで、1994年以降、同一の被験者グループが継続的に調査対象になっている。

 この研究データは、絵を使ったボキャブラリー・テストに参加した13~19才の若者のIQを測定したもので、7年後に同じ被験者に対して各自の宗教観と政治思想に関する質問が行われた。

 データ分析の結果、7年後に「まったく宗教心がない」かつ「非常にリベラル」と回答した人は、「非常に宗教心がある」かつ「非常に保守的」と回答した人に比べて、10代のころのIQが高いことがわかった。

 差異はそれほど大きなものではなく、例えば、リベラル派と保守派の差は平均で11ポイントにすぎない。それでもこの差は非常に重大だという。

 リベラル思考を「膨大な見ず知らずの他人の運命を気遣う」気質の現れとすると、「人類がごく最近身につけた特性だ」とカナザワ氏は話す。「歴史的に見て、人類は親密な家族や友人の幸せについて心配しても、赤の他人を心配することはなかった」。

 今回の最新研究に対してほかの専門家からは、「非常に興味深い。ただし、実証されたとは言い難い」との意見が出ている。

 アメリカにあるケース・ウェスタン・リザーブ大学の心理学者で専門誌「Intelligence」の編集を手掛けるダグラス・デターマン氏は、「今回の研究は非常に面白い。しかし知能の進化に関しては、ほかにも面白い仮説がある」と話す。「例えば、“異性をめぐる競争の中から知能が進化した”とする研究もある。もしそれが事実であれば、カナザワ氏の説は、リベラル派や無神論者がより性的魅力を備えているのでなければ妥当性を失う」。

 また、アメリカにあるコーネル大学の発達心理学者スティーブン・セシ氏は、「Add HealthのIQテストは、カナザワ氏のアイデアにとってはあまり良い証拠とは言えないだろう」と話す。

「Add Healthは、IQ測定で絵を使ってボキャブラリーを尋ねる方法を採用しているが、必ずしもカナザワ氏が対象とする種類の知能を測るものではない。Add Healthは、学校や文化を通して積み重ねられる“結晶性知能”の測定に優れる方法だ。結晶性知能は本来遺伝的に獲得するものではない。非伝統的価値を好む傾向が実際に進化的適応かどうかは、その場で考え出す問題解決や推論の技能を測定するIQテスト、例えばパズルを使ったテストなどが適切だ」。

 カナザワ氏も今回採用したデータが必ずしも最善でないことは認めており、「セシ氏の意見はよくわかっている」と話している。同氏は既に全英児童発達研究(NCDS:National Child Development Study)のデータ収集を済ませている。このデータは、同じ被験者に対し3つの年代で11の認知テストを行っている。「NCDSのデータは生得的知能を測定する上ではるかにしっかりとしている。今回の研究成果を裏付けするつもりだ」。

 今回の研究成果は「Social Psychology Quarterly」誌の2010年3月号に掲載されている。

Photograph by Scott J. Ferrell, Congressional Quarterly via Getty Images

文=Maggie Koerth-Baker