初期人類、航海術に長けていた

2010.02.18
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地中海周辺の衛星写真を合成した画像。画像中央に位置するギリシャのクレタ島で驚くほど年代の古い手斧が発見された。

Blue Marble image courtesy NASA
 ギリシャの島で発見された先史時代の斧から驚くべき事実が判明した。ホモ・サピエンス(現生人類)がヨーロッパにたどり着くかなり前の時代に、既に地中海で航海を行っていた者がいたという。 2年前、ギリシャのクレタ島の峡谷で、アメリカとギリシャの考古学者チームがある発掘調査を行っていた。約1万1000年前に地中海を往来していた海洋民族が使っていた小型の石器を探していたのである。

 目当ての石器は見あたらなかったが、代わりに驚嘆すべき遺物が発見された。アメリカにあるボストン大学の考古学者で石器の専門家であるカーティス・ランネルズ氏が、長さ約13センチの頑丈な手斧を見つけたのである。

 現地産の石英から削り出されたその粗雑な斧は、17万5000年前ごろまで人類の祖先がヨーロッパ本土やアフリカで使用していた手斧と類似していた。捕獲した動物の骨や肉を加工したり、皮を剥ぐのに使われる石器であり、約100万年間そのままの形で受け継がれてきた技術とみられている。

 今回の手斧が発見されたクレタ島は、約500万年前から広大な海に囲まれている。つまり、高度な工作技術を持った現生人類以外の何者かが、数万年間にわたって地中海の島々を転々としていた可能性が出てきたのである。ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)か、ホモ・ハイデルベルゲンシスか、ホモ・エレクトスか、あるいは初期のホモ・サピエンス(現生人類)だろうか。

 この時期の初期人類には、ボートや簡素な筏(いかだ)さえも生み出す能力はなかったと考えられていた。装身具を身に付けたり、芸術品を生み出したりといった現代的な習慣を有する現生人類が出現したのは、約10万年前のことだ。

 しかし今回の新発見がその定説を覆すかもしれない。人類の祖先は、単純な石器からは想像できないほど知的な方法で計画、協調、物作り(造船)を行っていた可能性が出てきたからだ。ランネルズ氏は、「こんなに早い時期からクレタ島に石器が存在したなんて、驚天動地の発見だ。ツタンカーメン王の墓からiPodが見つかるようなものだ」と話す。

 初期人類が航海を行っていたという話はそれほど信じがたいことなのだが、南ギリシャ古人類・洞窟学理事会(Directorate of Paleoanthropology and Speleology of South Greece)とアメリカの4つの大学で結成された調査チームは、同島の調査でその後も多数の証拠を発見している。

 クレタ島の南西岸に位置する町、プラキアス近郊では30個以上の手斧をはじめとする同年代の石器が9カ所の堆積物から多数発見された。

 石器が作られた年代は特定できないが、かつては浜辺だったとみられる手斧の発見場所の堆積物についてはピンポイントで年代が判明している。放射性炭素年代測定法によりもっとも若い堆積物が4万5000年以上前、地質学者と土壌科学者の分析によりもっとも古い堆積物が13万年以上前のものと推定されたのである。

 アメリカ、ロードアイランド州にあるプロビデンス・カレッジの考古学者でプロジェクトのリーダーを務めたトーマス・ストラッサー氏は堆積物の年代推定の結果を受け、定説より数万年早く、地中海で初期人類が航海を行っていたことを確信したという。

「彼らは計画的な航海をしていた。たんに漂流して島に流れ着いたわけではない」と同氏は力説する。それが事実なら航海期間が気になるところだが、時期や出発地によって差があったものとみられる。

 沿岸大陸棚の地図を見る限り、地中海の水位が現在より約144メートル低かった最低の時期でも、ギリシャのクレタ島以外の島、あるいはトルコからクレタ島にたどり着くためには、19~39キロにわたる航海を3度行う必要があったはずだ。一方でアフリカを出発した場合は広い水域を通る200キロの長旅になったとみられる。

「クレタ島では9カ所から数百点の石器が出土している。多くの人が海を渡ってこの地に集まり、長期にわたって集落が維持された考古学的証拠が残っている。誰かが偶然に流れ着いたわけではない」とランネルズ氏は解説する。

 今回の発見には考古学の世界を震撼させるパワーがある。例えば、ホモ・エレクトスやホモ・ハイデルベルゲンシスなどの初期人類は、アフリカを出発して東へ進出した際、シナイ半島や中東を歩いて渡ったと長い間考えられてきた。

 しかしクレタ島で石器が発見されたことから、まったく新しい可能性が見えてきた。ランネルズ氏はこう話す。「地中海の島々で旧石器時代の遺跡発見を目的に調査が行われたことはない。いまこそ注目すべきだ」。今回の研究は、米国アテネ古典学協会が発行している「Hesperia」誌で6月に掲載される予定である。

Blue Marble image courtesy NASA

文=Heather Pringle for National Geographic magazine

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