バルト海の沈没船にフナクイムシの被害

2010.01.19
フナクイムシに穴だらけにされた木。スコットランド沖で発見された。

Photograph by Paul Kay, Oxford Scientific, Photolibrary
 北ヨーロッパのバルト海で、木を餌とする厄介なフナクイムシが増殖しつつあり、バイキング船をはじめ歴史的価値のある10万隻もの沈没船が食い荒らされる可能性が指摘されている。 バルト海の沈没船が、ぜん虫状の軟体動物であるフナクイムシから何世紀もの間守られてきた原因は、この海の塩分濃度と水温がともに低いことにある。しかし新たな研究によると、地球温暖化の影響でバルト海はフナクイムシが住みやすい環境に変わってきているようだ。

 スウェーデンにあるヨーテボリ大学の海洋生物学者でこの研究の共著者クリスティン・アッペルクビスト(Christin Appelqvist)氏によれば、フナクイムシは1隻の沈没船を10年で食い尽くすことができ、ドイツ、デンマーク、スウェーデンの沖合のバルト海で13世紀以降に沈没した船およそ100隻が既に被害にあっているという。「1990年以降、バルト海南部でフナクイムシが大増殖している」と同氏は話す。

 フナクイムシは一般に塩分濃度の比較的高い水域にしか生息できないため、塩分濃度の低いバルト海では最近まで生息できなかった。なぜこの海域で突然繁殖できるようになったのかは明らかではないが、研究では海水温の上昇と関係があるのではないかと推測されている。理由は不明だが、フナクイムシは水温が高いと塩分濃度の低さによるストレスを感じにくくなるようだと同氏は説明する。

 この海域は、有史以前の木造の集落が水没した状態で眠る場所であり、現在では引き揚げられてストックホルムの博物館に展示され人気を集める17世紀のスウェーデンの軍艦バーサ号のように素晴らしい保存状態の沈没船の宝庫でもある。フナクイムシの増殖はこの海域の海洋考古学に壊滅的な影響を与える恐れがある。

 この海域の保存状態の良い沈没船をフナクイムシから守るために、水中の船をポリプロピレンのカバーで覆うか、海底の堆積物や土のうで覆うことが提案されている。しかし、このようなプロジェクトが気の遠くなるほど大規模なものになるのは確実だ。バルト海には保存状態の良い沈没船がおよそ10万隻眠っており、その数は現在も増え続けているからである。「マストなどの部品がすべて無傷の立派な大型帆船が今でも発見されている。無人探査艇で調査をするたびに新しい沈没船が見つかるのだ」とアッペルクビスト氏は話している。

Photograph by Paul Kay, Oxford Scientific, Photolibrary

文=James Owen