掃除魚のオスは違反者のメスを罰する

2010.01.12
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最新の研究によると、オスの“掃除魚”が食事を邪魔したメスを罰することがわかった。これは第三者の罰行動で利益を得る生物の存在を示す初めての証拠となるという。

Photograph by Luis Marden, NGS
 最新の研究によると、悪事は栄えないが、悪事を罰する者は得をするようだ。オスの“掃除魚”が食事を邪魔したメスを罰することがわかり、第三者の罰行動で利益を得る生物の存在を示す初めての証拠となった。 自分よりも体の大きい様々なクライアント(顧客)が“クリーニング・ステーション”に立ち寄ると、掃除魚(そうじうお)はクライアントの寄生虫を食べて掃除するが、クライアントの美味な粘液層をつまみ食いすることは掃除魚にとってマナー違反である。

 粘液層をかじり取るとクライアントが逃げてしまうため、たった1匹の掃除魚の裏切り行為が仲間の食事を奪ってしまう可能性があるのだ。

 スイスにあるヌーシャテル大学の行動生態学者でこの研究の共著者であるルドウアン・ブシャリ氏は「メスがクライアントを欺けばオスが損失を被るため、オスは悪行を正すのだ」と語る。

 だからといって、オスがいつも立派というわけではない。オスも裏切りを働くが、単にメスの方が弱いため、ほとんどの場合罰を受けるのはメスなのだ。「(ボクシング元ヘビー級チャンピオンの)マイク・タイソンと一緒に仕事をしているとしよう。あなたが“ズル”をすればタイソンはあなたを罰するだろうが、彼がズルをしても多分あなたは何もできないだろう」。

 これまでにも、野生のオスの掃除魚がクライアントの粘液質を食べたメスを追いかけ回す場面は観察されていたが、オスが実際にメスを罰しているのか否かを確認するためにブシャリ氏の研究チームは実験を行った。水槽のホソメワケベラに、食べ飽きたいつもの餌である魚肉の断片と、粘液質と同じくらいおいしいエビとを与え、メスがエビを食べるたびにすべての餌を水槽から取り出した。その結果、エビを食べたメスはオスから厳しい罰を受け、オスに従ってエビを食べるのを止めた。

 ジョージア州立大学の行動科学者サラ・ブロスナン氏は、この研究には参加していないが次のように評価する。「罰するという行動をした個体が直接利益を得ることを示す初めての例だ。ほかの生物でも罰行動がいかに進化したかを解明する手掛かりとなる可能性がある。ただしタイプの違う社会性動物には当てはまらないかもしれない」。

 例えば、カリフォルニア大学デービス校で人間の文化の進化を専門に研究するピーター・リチャーソン氏によると、人間は掃除魚と異なり、第三者による罰行動で個人が利益を得ないことが研究で示されているという。異論もあるが、人間については、他人の行動を正そうとする“おせっかい焼き”な行動は個人ではなく集団の利益になるように進化したと一部では考えられているのだ。

 リチャーソン氏自身は、今回の掃除魚の研究は人間行動の研究にそれほど寄与しないと考えている。「今回の実験では、オスは規則を守らないメスを罰することで直接利益を得られるのだから、集団の利益が問題になるような状況が起きることはない」。

 この研究は2010年1月8日発行の「Science」誌に掲載されている。

Photograph by Luis Marden, NGS

文=Brian Handwerk

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