新型インフル、豚への感染拡大の恐れ

2009.10.14
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専門家によれば、新型インフルエンザがアメリカ国内のブタに感染するのも時間の問題だという。写真は2005年にノースダコタ州の養豚場で撮影されたブタ。

 H1N1型ウイルスは、ブタの体内で今よりも危険性の高い型に変異して再びヒトに感染する恐れがあるという。その一方で、豚肉は危険だという誤解によって既に打撃を受けている養豚業者は売り上げがさらに落ち込むのではないかと懸念している。

Photograph by Will Kincaid/AP
 店頭に並んでいる豚肉が新型インフルエンザを媒介するという誤解のためにアメリカの豚肉業界は既に打撃を受けているが、現時点ではアメリカ国内の豚への新型インフルエンザウイルスの感染は避けられないと専門家は見ており、養豚業者は危機感を強めている。 影響を受けるのは経済面だけではない。過密状態の畜舎でブタを飼育する養豚業者が多いことを考えると、もしブタが感染すれば、新型インフルエンザウイルスが今より危険性の高い型に短期間で変異する可能性があると専門家は警告する。

 新型インフルエンザウイルス(H1N1型)は、ブタに感染していた別の型のウイルスから発生したと考えられている。カナダ、アルゼンチン、オーストラリアの家畜のブタからは新型インフルエンザウイルスが既に発見されているが、アメリカ国内のブタから発見されたという報告はまだない。

「しかし、それも時間の問題だろう」と、アイオワ州立大学でブタを専門に研究する獣医ロドニー・ベイカー氏は話す。ブタへの感染源となる可能性が最も高いのは、新型インフルエンザに感染した従業員だという。「私たちには店頭の豚肉がインフルエンザウイルスに感染していないことがわかっているが、世論やマスコミはそのことで大騒ぎしてきた。だからこそ私たちは、たとえ取り越し苦労だとしても、このウイルスで養豚業界が破壊されるのではないかと非常に神経質になっているのだ」。

 インフルエンザウイルスはヒトからヒトへ感染するのと同じ経路、すなわち、くしゃみや咳、鼻水などの飛沫感染によってヒトからブタへ、またブタからブタへ感染する。アメリカ養豚獣医師会の理事長でもあるベイカー氏は、「何らかのウイルスに感染したブタは、ほとんどの場合くしゃみや咳がひどくなる」と指摘する。

 ところが、「豚インフルエンザ」という俗称で呼ばれる割には、ブタがこのウイルスに感染した場合の症状は、ヒトに感染した場合ほど重くないようだとベイカー氏は言う。アメリカ農務省の研究員がブタに新型インフルエンザウイルスを接種したところ、そのブタはは咳込んで食欲を失い、48時間寝込んでいたが、「その後すぐに回復した。ブタはヒトよりも早くインフルエンザから回復するようだ」。

 しかし、新型インフルエンザウイルスがブタの体内に入ると他のウイルスと結合し、より感染力の強い型となって再登場するのではないかと科学者や業界の専門家は危惧している。ワシントンD.C.にあるピュー慈善財団のシニアオフィサーで、2008年に大規模家畜飼養に関する研究を率いたロバート・マーティン氏は、「ブタはインフルエンザウイルスが変異する環境としては最適だ」と述べる。

 現在の養豚業者はほとんどの場合、数千~数万頭のブタを身動きできないほど豚房に詰め込み、太らせて市場に出すという方法を採用している。「懸念されるのは、あまりに頭数が多いため、ウイルスがごく短期間で数世代分の変異を遂げることが可能になることだ」とマーティン氏は語る。

 H1N1新型インフルエンザがヒトからブタへ感染するのを予防するために、全国豚肉生産者協議会(National Pork Producers Council)は養豚業者に対して、病気の従業員に自宅待機を指示し、作業中は何度も身体を洗い、ブタの周囲にいるときは防護服を着用させるよう勧告している。

 そのほかにも、農場への訪問者数を制限する、最近海外に渡航したことがある従業員を監視する、感染の兆候がないか飼育中のブタに常に目を光らせる、新型インフルエンザワクチンが利用可能になったら従業員に接種を促すなどの提案がなされている。

 アメリカ農務省では、いわゆる「マスターシード」ウイルスを既に作成しており、これを利用して製薬会社数社がブタ用の新型ウイルスワクチンを開発しているが、完成は11月になるだろうとベイカー氏は話す。ただし政府は、ワクチンが利用可能になった場合でも業者にはブタへの接種を義務付けない方針である。新型インフルエンザに感染したブタの肉は食べても安全だからだ。

 ワシントンD.C.にある全国豚肉生産者協議会の科学技術部長ジェニファー・グレイナー氏によると、2009年4月にヒトへのウイルス感染が初確認されて以降、養豚業界は既に数億ドルの損失を被っているという。豚肉業界は豚肉の安全性をアピールするマーケティングキャンペーンを積極的に展開してきたが、メッセージが一般消費者に届いていないのではないかと恐れている。

 ブタの間での爆発的感染が大々的に報道されると状況がさらに悪化するのではないかとグレイナー氏は懸念する。同氏は、「豚肉の価格が再び下落し、豚肉を食べると新型インフルエンザに感染するのではと消費者が恐れるようになり、こうしてまた悪循環が始まってしまうというシナリオもあり得る」と話している。

Photograph by Will Kincaid/AP

文=John Roach

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