第2回 わずか100年でどのように新種が誕生したのか

 チューリッヒ大学は、スイスを代表する州立総合大学で、かのアルバート・アインシュタインが教べんを取ったことでも知られる。新種植物のフィールドに、ぼくを連れていってくださった清水健太郎教授は、ひと昔前でいう動物学科と植物学科を統合したような「進化生物学・環境学研究所」という組織に属している。

チューリッヒ大学。(写真クリックで拡大)

 研究室があるイルヒェル・キャンパスは、公園から地続きの緑地地帯にある。緩やかな坂道の両側に建物が立ち並ぶ独特の構造だ。坂の途中になぜか突然現れる水色の牛の像! それを目印に屋内に入り、目的の清水研究室にたどり着いた。

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 清水さんは植物系の研究者なので、研究室には「植物部屋」がある。宇宙船にしつらえられた栽培室のような赴きで、なかなかSFチックだ。ここではタネツケバナ属の例の新種をはじめ、研究に使う多くの植物が栽培されている。

 その並びにある執務室にて、お話を伺った。20世紀になって出現したらしい新種の植物が、どのように見いだされたのか、まず、そのあたりから始めよう。

「発見したのは、チューリッヒの研究者で、ランドルトさんとウルバンスカさんのグループです。20世紀の半ば、1960年代、70年代でした。ランドルトさんは、ものすごく形態の区別ができる人で、スイスのあちこちをフィールドにしていました。それで、山の方にあるウルナーボーデン村にアブラナ科タネツケバナ属の植物が生えているのを見つけて、その中にどうもこれまで知られているのと違うのがいるような気がすると疑問を持ったんです。他の研究者ならなかなか気づかないくらいの形態の違いだったんですが、ラボで調べたら、染色体の数が違うやつが混ざっている。これは新種だと。なぜ今世紀になってからの新種かというと、それ以前には森だったので、そもそも親の2種が交配する機会がなく、新種の生息できる環境もなかったと考えられるからです。いくら古くても150年前、19世紀後半以降、おそらくは20世紀になってから出てきたものだと言われています」

チューリッヒ大学の清水健太郎教授。(写真クリックで拡大)