ダーウィンフィンチのゲノム解読が広げる種の概念

「異種との交配」が進化においてより大きな役割を果たすことを示唆

2015.02.16
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ガラパゴス諸島に生息する小型の鳥「ダーウィンフィンチ」のくちばしのさまざまな形は、生物の自然選択の研究において重要な意味を持つとみなされて来た。 (左はダーウィンによるイラスト、右はガラパゴスフィンチの写真)(Photographs by Paul D.Stewart, Science Photo Library/Corbis and Joel Sartore, National Geographic)

 幅広いくちばし、細長いくちばし、尖ったくちばし、先の丸いくちばし。辺境のガラパゴス諸島に生息するフィンチに見られるくちばしの多様さは、生物は環境に適応して変化して来たとダーウィンが考えるきっかけとなった。

 そのくちばしの多様性を生み出すある遺伝子を「ガラパゴスフィンチ(学名:Geospiza fortis)」の DNA を分析していた科学者らが発見し、ヒトの顔の形成に関わる遺伝子がさまざまなくちばしの形成にも関与していることを示す研究結果が発表された。

 2月11日、「Nature」誌に掲載された論文は、同時に新種の形成についても新しい知見をもたらした。ガラパゴスフィンチの進化の歴史や、現在の異種間の関係はこれまで考えられていたよりも複雑であることがわかったのだ。

個体間の違いをもたらす遺伝子を特定

 進化のドラマを観たいなら、ガラパゴスフィンチは理想的な生きものだ。ガラパゴス諸島のフィンチは南米大陸に生息する他の鳥との生存競争を強いられることなく孤立しており、それぞれの島は独自の小さな生態系を持つ。その結果、14種のガラパゴスフィンチのくちばしの形は驚くほど多様になった。それぞれの形は、餌を得るそれぞれの特異な方法に最も適している。

 実際に進化の現場を観察するため、生物学者ピーターおよびローズマリー・グラント夫妻は、1973年から毎年数カ月間、小さな火山露頭である大ダフネ島でフィンチのくちばしの形と大きさの変化、そして餌の量や気候の変化について詳細な測定を行って来た。グラント夫妻は今回の論文に筆者として名を連ねている。

 この研究で科学者らはフィンチのゲノムの解読に初めて成功した。解読は、知られているすべての種のフィンチから集めた120羽の個体について行われた。

 ゲノムを比較したところ、くちばしの形と関連があるとみられるわずかな違いがいくつか見つかった。なかでも明らかに違っていたのは、顔や頭の骨の形成に不可欠なALX1と呼ばれる遺伝子だった。ヒトにおいては、この遺伝子の異常は口蓋裂(こうがいれつ)など奇形の原因となる。ガラパゴスフィンチでは、LX1遺伝子のわずかな違いによって、先の丸い頑丈なくちばしを使って硬い種子の殻を割る個体と、細長いくちばしで地面から小さな種を拾う個体とに分かれていた。

 大ダフネ島のガラパゴスフィンチは、両方の親鳥から先の丸いくちばしの遺伝子を受け継ぐと最も丸いくちばしとなり、丸いくちばしと尖ったくちばしの遺伝子を1つずつ受け継ぐと中間的なくちばしとなり、両方から尖ったくちばしの遺伝子を受け継ぐと最も尖ったくちばしになる。

「この違いこそ丸いくちばしと尖ったくちばしを生み出した変化だったと私は確信しています」と、スウェーデンのウプサラ大学の遺伝学者で論文著者の1人、レイフ・アンダーソン氏は語った。

 しかし、ニューヨーク州コーネル大学の進化科学史専門家、ウィリアム・プロバイン教授は、フィンチのくちばしの形を決める遺伝子は今回の報告で論じられているほど明白ではないかもしれないと慎重な意見を述べている。今後のゲノム解析でさらに意外な事実が見つかる可能性がある。「くちばしの形を決める要因は他にもあるかもしれません」とプロヴァイン氏は付け加えた。

 アンダーソン氏によると、フィンチの個体間の違いをもたらす遺伝子を突き止めるため、研究チームは引き続きゲノムデータを集めている。

ガラパゴスのマネシツグミ (写真右上) は、ガラパゴス諸島の生物種は島ごとに異なっているかもしれないとダーウィンが考えるきっかけとなった。イギリスに戻ったダーウィンはフィンチ (左上の3種。左下はアメリカムシクイ)をより詳細に調べ、その違いの重要性に気づいた。(Photograph by Paul D.Stewart, Science Photo Library/Corbis)

“新”種の起源

 研究チームはさらに、フィンチの分類は一般に考えられているほど明確ではないことに気づいた。1つの種と考えられていたあるフィンチは3つの異なる遺伝子グループから成り立っており、また、他の種のゲノムは思ったよりも互いに似通っていた。フィンチはこれまで考えられて来たよりも頻繁に長期にわたって異種交配(交雑)していたのではないかとグラント夫妻は述べている。

「この研究結果で覚えておいてほしいのは、種というものは、交配できないことによってきっちりと線引きできるような固定されたものではないということです。それどころか、数百年という長きにわたり、遺伝子の交換が可能な場合もあるのです」と夫妻は説明した。

 大ダフネ島のガラパゴスフィンチの例は、なぜある種の存続に交雑が重要であるかを示している。この島のガラパゴスフィンチは、尖ったくちばしを持つ傾向のある異なる他の2種と交配して、遺伝子プールにおける尖ったくちばしの遺伝子を増やしていた。1980年代中頃、島が壊滅的な干ばつに襲われたとき、グラント夫妻は同じ種であるガラパゴスフィンチのなかでも、くちばしが残された餌を拾い集めるのにより適した細長い形へと変化することを観察している。

 ダーウィン研究で知られる歴史学者、フランク・サロウェイ氏は、進化の過程において交雑がより大きな役割を持つというこの新しい知見は、科学者らが初めてガラパゴスフィンチに遭遇したときの印象と一致すると言う。1835年にダーウィンが最初にガラパゴス諸島に足を踏み入れたとき、フィンチがあまりに様々な姿をしていたため、同じ鳥だとは気づかなかった。それらがすべてフィンチであることを指摘したのは別の科学者で、ダーウィンが英国に帰国してからのことだった。

「フィンチの途方もない複雑さと多様性にダーウィンは騙されてしまったと言えます。今回の研究結果からわかるのは、進化についてはまだ多くの誤解があるということです」とサロウェイ氏は語った。

文= Warren Cornwall/訳=キーツマン智香

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