エボラ特集2:秘密集団を止められるのは首長だけ

被害の明暗を分けた要因の一つは伝統的首長の力にあった

2015.02.16
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エボラ最大の被害国の一つ、アフリカ西部のシエラレオネを現地取材した全5回シリーズの2回目。首都フリータウンはなぜこれほど無防備だったのか、その謎を探りに、被害の落ち着いた東部ケネマの町を訪れた。
■第1回 シエラレオネはなぜ無防備だった?
■第3回 「伝統の埋葬」が蔓延を助長した
■第4回 「エボラ孤児」1万人の行方

子どもたちを支援するNPO「プラン」のスタッフが、フリータウンのマウンテンカット地区に住む12世帯に生活物資を届ける。この地区で前日に死亡した住人からエボラウイルスが検出されたため、患者のいた建物はウイルス感染を防ぐため21日間隔離されている。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 フリータウンの問題を解く糸口を探しに、私はケネマを訪れることにした。ここでもエボラは猛威を振るい、多くの医療関係者の命を奪った。しかし、私が訪れた12月にはその流行もほぼ収束していた。

 フリータウンから車で5時間。途中、検問所で12回止められた。若い検査官が赤外線放射温度計をかざし、発熱している者を通過させないよう厳しくチェックする。ケネマの町へ入る手前の検問所では、警官が私の提示した政府発行の立ち入り許可証を念入りに調べた。

 許可証がなければ町には入れず、元来た道を戻るか、近くのテントに寝泊りして21日間の標準隔離期間を待つか、警官に賄賂を渡すかのいずれかを選ばなければならない。最後の選択肢は、ほとんどのシエラレオネ人には高すぎるので問題外だ。

フリータウンのゴーデリッチ地区では、隔離対象のエリアにロープが張られている。隔離された住人はこのロープを超えることを禁止されているため、友人や親戚が食料やその他必要な物資を届けている。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 およそ20万というケネマの人口は、フリータウンの5分の1だ。その多くが農業に従事しているため、食べ物には困らない。他の地域の場合、検問所や隔離で物流が阻害され、人々は生活の糧を失っている。また、ケネマは民族的にもフリータウンほどの多様性がなく、人々は伝統的指導者に従う。政府から任命された監督官が治める公的な行政区は決められているが、町の東側の地区は昔からこの土地に深く根付いた部族によって分かれている。

伝統的指導者の統率力

 このケネマで、ノンゴワ族の首長アラハジ・アマラ・B・ヴァンガフンに会いに行った。白い絹の衣服を身にまとって自宅のポーチに座り、頭には豪華な刺繍の施された帽子をかぶっている。むくんだ裸足の足元では2匹の子猫がじゃれあい、庭に張られた日よけテントの下には、12人の老人たちが座り込んでいる。

シエラレオネ、ポートロコの外れにある検問所で、トラック運転手の体温を測る兵士。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 ケネマで、6月に初めて謎の死者が出た時、首長は医療当局に相談し、エボラ出血熱の危険性について知らされた。そこで部族の人々に、患者を隔離し、死者の体を埋葬前に清める習わしをやめるよう無線で呼びかけた。また、シエラレオネに深く根付いている秘密集団の儀式も中止するよう訴えた。このような伝統的儀式が、身体的接触を通してエボラの流行につながったのではないかと首長は見ているのだ。

 「ボンドと呼ばれる女性だけの秘密集団で、5人の女性が指導者の遺体を清めていたという報告を受けた。そこで我々は、彼女たちを捕まえて8日間隔離し、それぞれ50万レオン(約1万3800円)の罰金を科した」。ヴァンガフンは、事態をいかに重く受け止めているかを説明し、この地における自分の影響力の強さを示した。通訳者は低い声で、「秘密集団を止められるのは、首長だけです」と言った。

地域により反応が分かれる西部の町

 フリータウンへ戻った私は、地域の責任者やまとめ役(選挙で選ばれた短期的な指導者)に話を聞いた。彼らには、地方の首長ほどの影響力はない。数人のシエラレオネ人が、都市部の短期的な指導者よりは農村部の首長のほうがずっと人々の尊敬を得ていると証言している。首長は一生涯その役割を担い、その土地の歴史・文化に溶け込んでいる。私が見ても、一部の責任者やまとめ役の立場の人々は、担当地域の住民にそれほど愛着を抱いていないという印象を受けた。

シエラレオネのエボラ検問所で通行許可を待つ人々。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 フリータウンに隣接するテンベタウンは、階段状になった斜面にしがみつくように、コンクリートのアパートが密集する町である。そこで私は、町のまとめ役であるアブドゥル・セリー氏に会った。ジーンズのショートパンツに白のタンクトップを着たセリー氏は、背の低いドアから現れて調査員と話をしていた。調査員は大学生のアルバイトで、隠れた感染者がいないかどうかを調べて回っている。そばでは数人の男女が固まって聞き耳を立て、路地で洗濯していた別の女性たちも、顔を上げた。

 セリー氏は、調査員のアルファ・カマラさんに対して、エボラ流行のおかげで食料の供給路が断たれているため、住民にもっと米ととうもろこし、玉ねぎを支給してほしいと訴えた。カマラさんはノートにそれを書きとめた。

 私はセリー氏に、国のエボラ対策についてどう思うか聞いてみると、肩をすくめて答えた。「あと2~3カ月もすれば収まるだろうよ」。そして、仲間と一緒に暑く薄暗いアパートの中へと消えていった。

2014年11月、米国疾病予防管理センター(CDC)のマイク・ステーリー氏(写真左)とその助手アリー・ブリマ・ティア氏が、エボラウイルスへの感染が疑われる患者の血液を、CDCの現地研究室へ運ぶ。ウイルス検査を迅速に行うため、CDCは国連と協力し、ヘリコプターを使って血液サンプルを集めている。検査が遅れると感染者の治療が遅れるばかりか、非感染者が一時収容センターへ長く留まることになり、感染の危険性が高まってしまう。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 フリータウン周辺には、徒歩でしか行くことのできない集落も多い。山のかなり高いところまで、小さな家の塊が点在している。大晦日の少し前に出会った若い調査員によると、こうした集落に住む人々は、エボラに対していまだに懐疑的だという。

 「サルを食べるとウイルスに感染するという噂を聞いても、食べられるほどサルがいないから自分たちは大丈夫だと言っているんです」

損失は9億2000万ドル相当

 12月の終わりごろ、政府は掃討作戦を開始した。職員は各家庭を訪問して、病人がいないか調べて回っている。「必要ならば、力ずくでも病院へ引っ張っていきます」。国立エボラ対策センターの企画担当責任者マモウド・イドリス氏は言う。「いつまでもエボラの後を追いかけているわけには行きません。経済は崩壊し、国民は疲弊し、多くの人が命を落としてしまいます」

エボラ出血熱から回復した患者が、ヘイスティング・エボラ治療センターを退院し、バスに乗って帰宅の途につく。ベッドのマットレス、服、その他患者が使っていた身の回りのものは、除染目的でほとんど燃やされてしまうため、生存者には政府や国際支援団体から基本的な生活用品が支給される。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

 作戦は効果を表しつつある。フリータウンとその周辺地域での新たな発症件数はペースダウンしているようだ。医療当局の発表によると、国内の新たな発症件数は1月第1週で248件、1月11~18日の間は117件だった。流行を押さえ込むことができれば、急ごしらえで建てられたエボラ病棟は姿を消し、町は元に戻るだろう。後に残されるのは、さらに深まる貧困だけだ。世界銀行によると、シエラレオネは今年、エボラ流行のために9億2000万ドルの経済成長の機会を失うだろうという。

 人々が昔ながらの生活を捨てて、現代社会のもたらす便利さを求めてやってくる限り、フリータウンは世界の他の都市同様、今後も成長を続けていく。こうした移民の流入とともに、下水道、舗装道路、救急車、看護師とベッドが十分にある病院、安定した電気供給といった都市のインフラが21世紀のレベルに追いつくことができなければ、町は無防備なまま次の災害に見舞われ、同じ悲劇が繰り返されかねない。

ヘイスティング・エボラ治療センターを退院し、自宅へ帰るバスを待つネネー・セセイさん(23歳)と娘のザイナブちゃん(2歳)。セセイさんの夫は、彼女がエボラ出血熱と診断された直後に死亡した。(Photograph by Pete Muller, Prime for National Geographic)

つづく
■第1回はこちら「シエラレオネはなぜ無防備だった?」
■第3回はこちら「『伝統の埋葬』が蔓延を助長した」
■第4回はこちら「『エボラ孤児』1万人の行方」


この取材は、国際非営利報道組織「Pulitzer Center on Crisis Reporting」の支援により実現した。

文=Amy Maxmen/写真=Pete Muller/訳=ルーバー荒井ハンナ

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