第12回 横に傾いて泳ぐ奇妙なサメを発見し、理由を解明!

図1:ヒラシュモクザメに機器を取り付ける筆者(左から4人目の黄色い服)。長いサメの背びれに注目。(画像提供:渡辺佑基)
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 科学論文は概してつまらないものだ。科学論文の審査基準はエンターテイメント性ではなく、科学的な新規性や厳密性なので、当たり前のことである。それに本当に面白い研究成果は、すなわち科学的な大発見であり、そんなものがぽんぽんと立て続けに出るわけがない。それはよくわかっている。わかってはいるけれど、研究者は皆、心の奥底では野望の炎をめらめらと燃やしているものだ。いつかはエンターテイメント性にあふれた、とびきり面白い論文をかっとばしてやるぞと。

 今回、「Nature Communications」誌に掲載されたヒラシュモクザメの論文は、私にとっては満願成就の「かっとばした」論文である。なるほど社会的な重要性という尺度からいえば、再生医療や発電技術などの研究に敵うべくもないけれど、こと面白さに関していえば、相当のものですよと胸をずいと張っていえる。もちろん面白さの感覚は人によってまちまちなので、「え、それだけ?」と言われてしまったら、返す言葉がないのだけれど。

 さて、今回の論文はサメの泳ぎ方について。

 電子端末で世界中の情報がチェックでき、自動車が無人走行を始めつつある現代においても、海の中には壮大な未知の世界が広がっている。たとえば魚。世界中のどこの海にも、稀にしか捕獲されない珍しい魚が大抵いるが、そのような魚に関する知見は、死骸を基にした形態の情報に留まっている。珍しい魚たちが海の中でどのように泳ぎ、どのように生活しているのかは、ほとんどわかっていない。

 2015年2月、私たちはオーストラリアの東海岸でイタチザメの調査をしていた。大きな針に餌をつけ、イタチザメを釣ろうと試みていたところ、偶然、体長3メートルのヒラシュモクザメが針にかかった。世界中に10種いるシュモクザメ(目が左右に突き出したあのヘンテコなサメだ)の中で、一番大きいのがこのヒラシュモクザメである。世界中の暖かい海に分布しているのにもかかわらず、めったに拝むことのできない珍しいサメとして知られている。

 珍客が向こうからやってきたのだから、こちらにとっては願ってもないチャンスである。私たちはイタチザメのために用意してあった行動記録計をヒラシュモクザメの背びれに取り付け、放流した(図1)。翌日、記録計がタイマーでサメの体から切り離され、海面に浮かび上がったところを、電波信号を頼りに回収した。