第6回 アザラシの風変わりな休息法

バイカルアザラシ。体長より胴回りが長く、まるっこい体型をしている。(撮影:渡辺佑基)
[画像のクリックで拡大表示]

 アザラシというと一般的には、浜辺や氷上に横たわってごろごろしているイメージだろう。それは実際その通りであって、南極のウェッデルアザラシであれば南極の氷上で、北海道のゼニガタアザラシであれば沿岸の岩場で、まるで置物のようにじっとしたまま長い時間を過ごしている。

 けれどもアザラシの中には数カ月あるいは半年以上もの間、一度たりとも上陸せずに、ひたすら泳ぎ続ける種類がいるのをご存じだろうか。たとえばカリフォルニアの浜辺で子育てをするキタゾウアザラシは、1年のうちのじつに10カ月間を、ほとんどマグロのように太平洋を泳ぎまわって過ごしている。

 ここで素朴な疑問。このように長時間上陸しないアザラシは、いつ、どのように休んでいるのだろう?

 その答えを私はいまから10年近く前、大学院生としてバイカルアザラシの調査をしていた折、思いがけずに発見した。予想もしていなかったその結果に、当時の私は心底驚き、興奮した。

 当然、すぐに論文にすべきだった。けれどもちょうどその頃、私はアザラシに加えてマンボウやチョウザメの研究にも乗り出しており、あれやこれやと忙しくしているうちに、いつの間にか優先順位が落ちてしまった。誰にでもあることかもしれないが、「いつかやろう」と思いながら、その「いつか」がちっとも訪れないまま、10年もの年月が過ぎてしまっていた。

 これではいけない。最近になってようやく反省した私は、ハードディスクの奥底から10年前のデータを掘り起こし、論文を書き始めた。幸いなことにデータは腐っておらず、それどころかデータの輝きは少しも減衰していなかったので、英国の一流の学術誌『Journal of Experimental Biology』にスムーズに受理され、先日内容が公開された。

 今回紹介するのは、そんな新しいのか古いのかよくわからない私の論文である。

次ページ:2002~06年まで毎年バイカル湖で調査を実施