第15回 海氷の消えた南極とアデリーペンギン

青い海に浮かぶ氷山。(撮影:渡辺佑基/協力:ニコンイメージングジャパン)
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 昨年の12月24日、ヘリコプターから降りて5年ぶりに南極の土を踏みしめたとき、私は目の前に広がる景色にギョッとした。氷がない。海を厚く覆っているはずの白い海氷が、今シーズンはすっかり姿を消し、青々とした海面が露出している。ちゃぷちゃぷという波音が絶えず聞こえてくるのも、異様な感じがした。いつもなら氷が海に蓋をして波を打ち消し、静寂の世界をもたらしているからだ。遠くに浮かぶ氷山さえなければ、伊豆や三浦あたりと錯覚するほどの、平凡で平和な海がそこにはあった。

 早速、アデリーペンギンの集団営巣地を訪れてみると、子育ての真っ最中だった。無表情で直立している親ペンギンの足元に、ヒヨコを灰色に染めたような雛がちんまりと座り、ヒーヒーと鳴いて餌をねだっている。隣の巣では親ペンギン同士が向かい合って上空を見上げ、けたたましく鳴き交わしている。

アデリーペンギンの親子。(撮影:渡辺佑基/協力:ニコンイメージングジャパン)
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 それはいつもと変わらぬ光景に見えた。全体の巣の数も、例年に比べてとりわけ多くもなく、また少なくもなかった。しかしペンギンは海で獲物を取って生活している。今シーズンたまたま起こった海氷の大規模な流出が、ペンギンの生活に影響しないはずがない。では、いま目の前にいるペンギンたちに、いったい何が起こっているのだろう。

 そして40日間にわたる長い野外調査が始まった。

アデリーペンギンと筆者。(撮影:武隈周防)
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 調査が始まって私が最初に気付いた変化は、体重だった。私たちはペンギンの体重測定のために、二種類のばねばかり――5キロまで測定可能なタイプと10キロまで測定可能なタイプ――を持って来ていた。私の過去の経験によれば、アデリーペンギンの体重測定は5キロタイプのばねばかりで大抵事足りる。ところが今シーズンに限っては、5キロ超えのペンギンが続出し、10キロタイプのばねばかりが頻繁に登場した。端的にいって、今シーズンのペンギンは太っていた。

 次に、ペンギンの背中にGPSを取り付けて測定した移動経路も、例年とはパターンが違った。例年、ペンギンたちは巣を出発すると、氷上を歩いて移動し、氷の割れ目を見つけ、潜水して獲物を捕えた のちに、また氷上を歩いて帰ってくる。いっぽう今シーズンのペンギンは、巣を出るや否や目の前の海にじゃぼんと飛び込み、すいすいと泳いで、例年よりもはるかに広い範囲を短時間で探索していた。