南極の厚さ700mの氷の下にすむ半透明の魚を発見

熱水ドリルを使って氷を掘削し、潜水ロボットが写真や動画を撮って氷上へ送信。

2015.01.30
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南極の氷床下に生息しているのが見つかった半透明の魚。脳と背骨が透けて見える。海を覆う氷の融解に伴い、落ちてくる岩石を避けながら生きることを余儀なくされている。(Photograph by Deep-SCINI UNL-Andrill SMO)

 太陽光から遠く隔てられた厚さ700メートルを超える氷の下には、巧みに生き抜く生物がいた。

 厚さ約740メートルにもなる南極大陸のロス棚氷。科学者たちはこの氷を掘削し、氷の下の水中から微生物や甲殻類を発見してきたが、このほど数種の珍しい魚が新たに確認された。

 ほんの10年前まで、南極大陸の巨大な氷床の下で生存できる生物などいないと思われていた。氷床下には深さ約10メートルの海水があるが、水温は氷点下という過酷な条件だ。

 生息場所が暗いためか、発見された数種の魚はどれも大きな目をしている。色はオレンジ色、黒などだが、見つかった中で最大の魚は皮膚が半透明で、内臓が外から透けて見える。

「生物学上の成果として、地球上で5番目に大きな大陸とつながる氷の下にすむ生物を初めて垣間見ることができました。良質な氷の塊以上の物ではないと従来考えられていた大陸で、です」と語るのは、研究チームの一員でモンタナ州立大学の生態学教授ジョン・プリスク氏だ。

 今回の新発見がもたらされたのは、40人以上の科学者が連携する学際的プロジェクト「ウィランズ氷河底湖調査プログラム」(WISSARD)のおかげである。

なぜ半透明に?

 研究チームは、熱水ドリルを使って厚さ740メートルの氷を掘削。次いで、遠隔操作が可能な潜水装置を穴に入れて水中へと下ろした。

 潜水したロボットが棚氷の下で生物の写真や動画を撮り、氷上へ送信した。

 新たに見つかった透明な魚が新種なのかどうかはまだ明らかではないが、ノトテニア亜目に属する可能性が高いとみられる。

 スズキ目に属するノトテニア亜目は、南極海の動物の大半を占める。ドイツにあるヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネン研究所の生物学者ラインホルト・ハネル氏によれば、南極海の動物の総重量(バイオマス)の91%、種の77%に相当するという。

 地熱に加え、海を覆う棚氷の圧力と動きがあるため、これらの魚が生息する水中は摂氏マイナス2℃に保たれている。つまり魚たちは、生存のためにいくつもの手段でこの水温に適応する必要があったのだ。

 WISSARDプロジェクトには関わってないハネル氏は、「この魚たちがうまく進化を遂げられたのは、不凍糖タンパク質などの主要な適応手段と関係があります。これにより、氷点下の水中でも体液の凍結が防げるのです」と説明する。

 内臓が透けて見えることについては、ハネル氏は「おそらく、血液を赤くするタンパク質のヘモグロビンが進化の過程で失われた結果、体が半透明になったのでしょう」とみている。

南極の微生物とヒトとの関係は?

 ギョロ目の魚たちの発見が、うれしいサプライズだったのは間違いない。だが、プリスク氏がより強い関心を寄せているのは微生物だ。

 2014年8月、プリスク氏はWISSARDプロジェクトの同僚たちとともに科学誌「ネイチャー」に論文を発表。西南極のウィランズ湖にある氷床下に微生物が存在していることを初めて証明した。

 今回の調査で得られたサンプルはまだ分析を待っている状況だ。プリスク氏は「ロス棚氷の下にいる微生物の生物多様性が、ウィランズ湖や北極で採取したサンプルと比べてどう違うのかを見るのが非常に楽しみです」と話す。

 さらにプリスク氏は、泥の中にすんでいると分かったこれらの微生物が、メタンや二酸化炭素といった温室効果ガスを出しているのか否かについても関心を寄せている。

「もしそうなら、氷床の融解に伴い、こうしたガスが大量に放出されることが予想されます」とプリスク氏。

 しかし、プリスク氏が南極の微生物に興味を抱く理由は気候変動だけではない。研究チームによる調査は、冷たく暗い宇宙のどこかにいるかもしれない生命探索や、地球上の生態系についての理解にも影響を与える可能性がある。

「10年前、南極大陸は地球の生物圏には含まれないとさえ考えられていました」とプリスク氏は振り返る。「その地球観が今、変化しているのです」

文=Jason Bittel/訳=高野夏美

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