絶滅危機のトラがインドで増加。成功例となるか?

インドでトラの個体数が増加に転じた可能性が出てきた。ただ喜ぶのはまだ早いようだ。

2015.01.30
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インドのカジランガ国立公園に仕掛けられた自動撮影カメラがとらえたベンガルトラ。 (Photograph by Steve Winter, National Geographic Creative)

 野生動物の保護活動の中でも、トラを保護する活動には多額の資金が提供されてきた。ただ、その一方で密猟は止まらず、トラの生息に適した地域が失われ続けていることもあって、トラの減少をくい止めることは難しいと見られていた。

 ところが先日、野生のトラの大半が生息するインドで発表された、同国政府のトラ個体数調査の中間結果で、2014年までの過去7年間、同国内の保護区域に生息するトラの個体数が急増していることがわかった。

 インドのプラカーシュ・ジャバデカル環境相によると、同国内に生息する野生のトラの個体数は2226頭。この数は、7年前の調査の1411頭と比べて58パーセント近い増加だ。今回の数字についてジャバデカル環境相は「すばらしい成果。熱心な職員、森林警備員、地元住民の協力があって成し遂げられた」とした。インドには世界のトラの7割が生息すると見られている。

「トラの保護活動の関係者たちは、このうれしいニュースをやっと聞けて大いに沸いています」。トラに詳しいジャーナリストで、2013年に出版された『Tigers Forever(トラよ、永遠に)』(米ナショナル ジオグラフィック協会)の共著者シャロン・ガイナップは語る。

 ガイナップによると、2015年内に最新の世界規模のトラの個体数調査の結果が発表されるという。専門家の見解は、20世紀初頭に10万頭いたトラは、現在3000頭程度まで減少しているということで共通している。

 トラはかつて23カ国にわたる広い地域に生息したが、今では生息が確認できているのはわずか11カ国だ。カンボジアとベトナムには野生のトラはここ数年見られていない。

個体数回復の鍵

 開発などでトラの生息地が失われたり、トラが捕食する動物を人間が狩ったりすることで、トラの生息環境はどんどん悪化した。密猟の被害は今も少なくない。

 トラの骨や体の部分の売買は国際条約で禁じられている。しかし、アジアの伝統医療では昔から薬としてトラは重宝されており、今も闇市場で高値が付く(西欧の科学者たちはトラの部位の薬効を疑問視している)。

 インド政府は、ここ数年にわたって密猟者への取り締まりを強化し、トラの保護区を守る努力を重ねてきた。インドでトラの生息数が増加に転じた詳細に関しては、1カ月後に発表される予定の「インドのトラの生息状況調査2014」の全容を待つほかないが、中間集計の結果から「頭数が大幅に増えているのは、保護公園でも大規模なところです」とガイナップは指摘する。「今回の調査で注目すべきなのは、トラに広い生息地を用意し、トラとトラが捕食する動物を守りさえすれば、トラの個体数は復活可能だということでしょう」

調査結果の信頼性は

 インドが発表するトラの生息数の数値は、以前は、その信ぴょう性が疑われた。これは、トラの足跡を元に個体数を推測するといった旧式の方法だったからだ。しかし、この数年で状況はガラリと変わった。調査の現場には自動撮影カメラが導入され、トラの姿を記録している。そして、人間の指紋と同様、個体ごとに異なるトラの縞模様で、個々のトラを識別し個体数を算出するようになったからだ。

 インドを中心に各地でトラを撮影しているナショナル ジオグラフィックの写真家、スティーブ・ウィンターによれば、「インド当局は、現在、信頼しうる科学的な方法でトラの生息数を調査しており、成果が出ている」と語る(ウィンターはガイナップの著書『Tigers Forever』や、ナショナル ジオグラフィック誌2011年12月号の特集「消え行く王者 トラ」でも撮影を担当した)。

 インド当局は、生物学者のウラス・カランスや野生動物保護協会、大型ネコ科動物を研究する著名な生物学者たちからの助言を得ながら、自動撮影カメラを開発した。

 動物保護団体「パンセラ」と野生動物保護トラストは1月22日、「全国規模の調査で大きな前進を実現した国立トラ保護当局とインド政府の努力を称えます」との声明を発表。ただ、この声明には「調査がどのような方法で行われたかが公表されるまでは、2014年の調査結果と、2006年から2010年までの調査結果を比較することは、まだできません」との懸念も示された。

 保全生物学者で探検家のルーク・ダラーは「喜び過ぎてはいけませんし、油断は禁物です。今回の調査で世界のトラの正確な個体数がわかって増加に転じたことがわかっても、トラの生息数は100年前の個体数と比べれば5パーセントにも満たないのです」と語る。ダラーは、ナショナル ジオグラフィックの大型ネコ科動物を守るプロジェクト「ビッグ・キャッツ・イニシアティブ」を推し進める1人だ。インドをはじめ世界の野生のトラが危険な状況に置かれていることに変わりがないと警鐘を鳴らす。

 ダラーはさらに続けた。「確かにインドは、トラが棲むほかの国に比べても保護のための財源があり、保護活動で着実に成果を上げつつあります。ただ、トラの保護には数多くの課題が残っているのは、インドもトラが生息するほかの国々も同じ。警戒を怠れば状況はすぐに悪化してしまうでしょう」

文=Brian Clark Howard/訳=北村京子

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