第1回 40年間、時が止まったままのゴーストタウン キプロス島バローシャ

建設途中で放置されたホテルが、フェンスに囲まれたバローシャの海岸沿いの通りに並んでいる。トルコ系キプロス人の兵士が巡回しており、危険を冒して塀を乗り越えようとする観光客はまずいない。(c)Julienbzh35

 地中海に浮かぶキプロス島のバローシャは、かつて世界屈指の人気を誇るリゾートだった。高級ホテルが立ち並び、大通りには高級店が軒を連ね、世界中から観光客が休日を楽しみに訪れていた。エリザベス・テイラーやリチャード・バートン、ブリジット・バルドーといったハリウッドのセレブにも愛された場所だ。バローシャの真ん中を貫く大通りジョン・F・ケネディ大通りはかつては大いに賑わいをみせ、バローシャはまさに地中海を代表するリゾートだった。

 しかしいま、バローシャに立ち入ることはできない。フェンスに隔てられ、無人となったまま、華麗な街は廃墟と化してうち捨てられている。

■南北に隔てられた島

 バローシャはキプロス島の都市ファマグスタに隣接している。ファマグスタは現在、ギリシャ系住民が占める島の南部とトルコ系住民が占める島の北部を分ける境界線「アッティラ・ライン」のすぐ北に位置している。

 キプロスが南北に分裂したのは1974年、ギリシャが支援する勢力がマカリオス3世を襲撃したことに始まる。マカリオス3世はキプロス正教会の大主教で、1960年にキプロスが独立して以来の大統領だった。だが失策のすえに、トルコ系住民とギリシャ系住民の平和維持を目的として国連軍が介入する事態を招いていた。

 このギリシャ支援勢力によるクーデターをきっかけに、今度はトルコ軍が侵攻してきた。キプロス島は、ギリシャ系住民が占める南側と、北キプロス・トルコ共和国の北側とに分断され、現在もその状態が続いている。

 ファマグスタはトルコの勢力下に入り、多くがギリシャ系だったバローシャの住民は1974年8月15日、戦火を恐れてこの楽園から逃げ出した。

■40年前の新車が並ぶ自動車ディーラー

 現在のバローシャは、住人が逃げ出したその瞬間で時が止まっている。テーブルの上に放置された朝食の食器。車のディーラーには1974年当時の最新モデルが並んでいる。ブティックには70年代半ばに流行した服が積まれたままだ。

 40年にわたり放置された建物は、容赦ない自然の力にさらされてじょじょに風化し、朽ちようとしている。手入れされていない草木の根が、かつての立派な建物の基礎を浸食しつつある。補修されることのない道路は、強い日差しを浴びて、季節を追うごとにひび割れていく。以前は太陽の光を求める多くのリゾート客で賑わっていた浜辺も、今ではウミガメの生息地だ。

 バローシャを放置したままにせず、解決を求める動きはある。国連が仲介してギリシャ系住民に返還する案が検討されたことがあったが否決された。南北双方にとって、1974年の戦火による傷はいまだ生々しく残っている。バローシャは過去の出来事を象徴する存在であるばかりでなく、双方にとって交渉における重要な取引材料であり、キプロス島における難題の一つなのだ。

 トルコ系キプロス人地域のリゾート地ファマグスタの浜辺では観光客が日光浴を楽しんでいる。そのすぐ隣で、バローシャはひっそりと朽ちていっている。バローシャは、解決の糸口の見えない内紛の証なのだ。

立ち並ぶ高級ホテルとマンションが、地中海に面するバローシャの砂浜をむなしく見下ろしている。近くのビーチパラソルが、途絶えて久しい日光浴の客を待っているようだ。(c)Julienbzh35

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