第20回 生きたままのミイラをつくる

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 以前紹介したように、コケなどに生息するクマムシは、周囲の水が蒸発すると脱水してカラカラの乾眠状態となり生き延びる。だから、野外からとってきたクマムシを観察する者たちには、ナチュラルな欲望が芽生えてくる。「クマムシを乾かして乾眠にしたい」、と。

 だが、クマムシ初級者によるこの試みは、失敗に終わることが多い。スライドガラスの上などで乾かすと、クマムシは乾眠にならずにただの死んだミイラになってしまうのである。クマムシが乾眠という「生きたままのミイラ」になるには、ゆっくりと乾く必要があるのだ。野外でクマムシが乾くときは、周囲のコケのクッションに守られながらきわめてゆっくりと水が蒸発していくことを考えれば、おわかりいただけるだろう。

 それでは、どのようにしてクマムシを乾かせばよいのだろうか。これには色々な方法があるが、ここでは最も簡便なやり方を伝授しよう。それは、ろ紙を使う方法だ。

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 クマムシを100マイクロリットルほどの水と一緒に2センチメートル四方のろ紙の上に乗せ、そのまま室内で一晩乾燥させる。乾眠能力のあるクマムシであれば、大抵はこの方法でうまく乾眠にすることが可能だ。

 乾燥後、クマムシが乾眠のシンボルである「樽」の形になっているかを確認したら、水をかけて顕微鏡で観察してみよう。早ければ、10分ほどでクマムシが動き出す様子を見ることができる。消失した生命の復活。体長1ミリメートルにも満たないクマムシが、生命の神秘を見せてくれる瞬間である。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad