第13回 もっと光を! 冬の日照不足とうつの深~い関係

 冬になって曇天が続いたり、北国のように日照時間が短くなっても、室内照明もあるし生活に不便なし! そのような考えは大きな誤りである。物を見るには十分な明るさでも、非視覚性作用にとっては不十分、真っ暗闇、という場合もあるのだ。少なくとも日照の季節変動に過敏な人々にとっては、冬季の日照不足が眠気やうつなど心身の不調の原因になっている。極端に日照時間が変動する極地圏では一般生活者の生殖活動にすら季節変動が認められるとのレポートもある。逆に、盲目の人でも網膜視床下部路が正常に働いて非視覚性機能が保たれている場合もある。

 以上をプロローグとして、次回から冬季うつを引き合いに光環境が我々の心身に及ぼすユニークな作用やその対処法についてもう少し詳しくご紹介する。

 ちなみに「もっと光を!(Mehr Licht!)」という実にベタなタイトルについてご説明すると、死の床にあったゲーテを安静にするため召使いが窓を閉めて部屋を薄暗くしていたところ、少し元気になったゲーテが「もっと光が入るように、寝室の窓のシャッターを上げてくれ(Mach doch den Fensterladen im Schlafgemach auf, damit mehr Licht herein komme.)」と語ったのを、後年の伝記作家が現在のように書き直したのだとドイツ語学者の信岡資生氏は指摘している。

 薄暗い部屋でゲーテも気分が滅入ったに違いない。「もっと光を!」を「さらなる啓蒙を」という意味に捉える向きもあるようだが、信岡資生氏の解釈の方が私にはしっくりくるのである。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。