第19回 肉食クマムシの強力キス

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 コケなどから出てきたクマムシを観察していると、たまに肉食性クマムシがヒルガタワムシやセンチュウを食べているシーンに出くわす。クマムシは土管の先っぽのような口をもつ。口の中には1対2本の「口針」とよばれる鋭い針が仕込んである。口針は口からの出し入れが自在にできるようになっている。これを銛のようにして獲物に突き刺して引っ張り込むのだ。そして獲物の体液をちゅーちゅー吸って食事をする。

 相手が小さなヒルガタワムシであれば、丸ごと吸って飲み込んでしまう。細長いセンチュウの場合は飲み込むことができないので、センチュウの体に口だけくっつけた状態でしばらく食事をする。センチュウが暴れ、クマムシの体がばったんばったんと揺らされることもあるが、体から口が離れることはあまりない(クマムシの種類にもよる)。

 このような肉食クマムシの強力キスは、他のクマムシにも向けられる。たまに、小さなクマムシが餌食となる場面にも遭遇する。肉食性クマムシが別の種類のクマムシを捕食するわけである。ちなみに、同種間での共食いはあまり起こらないようだ。

 ヒルガタワムシやセンチュウが食べられていても、まったく可哀想とは思わない。だが、クマムシがクマムシに食べられている様をみると、心に痛みが走ってしまう。差別主義者だといわれるかもしれないが、クマムシ研究者であればこの感情も仕方のないことだと思う。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad