第113話 なんと!なんと!朝一の電話に、嬉しびっくり

 次の朝、私たちは、けたたましく鳴る電話の音で目が覚めた。

 その電話の主は、なんと、なんと! あのオリバー爺さんからだった。

 第二次世界大戦時に徴兵され、イタリア上空戦の機関銃手だったことから、敵兵ながら人を死なせてしまった自責の念に駆られ、50年もの間、アラスカの深い森の中に入り、「人はなぜ殺し合うのか?」「なぜ戦争が起こってしまうのか」を考え続けた仙人のような人である。

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 私とは、秋の深まる季節に、このミンチュミナのロッジで共に暮らし、森に生きる知恵や技術を教えてくれた、言わばトーニャと私の“森の師匠”だ。

 80歳を超える老いた体でありながら、森の自分のキャビンに帰り、1人でアラスカの厳しい冬を越そうとしていたが、周囲の反対もあって、結局、長く離れていた娘さんと、残された人生の時間を過ごすことを決断し、都会の街へと戻っていったのだった。

 そして今は、娘さんの家の近くにあるシニアホームに入所して、手厚い介護を受けながら暮らしていると聞いていた。

 ずっと森の中で暮らしてきたオリバー爺さんにとっては、都会のシニアホーム暮らしは、不本意で窮屈なものだろう。

 同じ森に生きる男として、スティーブは、

「森の男は、森で死にたいものさ」と口惜しさ交じりに言っていたが、やはり女性の立場から言えば、男の生き方よりも、まずは娘の父として、生きて欲しいものだ。 

 ある意味、オリバー爺さんにとって、最も勇気のいる選択だったのではないだろうか。

 電話口のオリバー爺さんの声は、相変わらず優しく、弱々しかった。