コロンブスを航海に向かわせた、トウガラシをめぐる冒険

香辛料と新世界

 1493年1月15日、コロンブスは自身の日記に、新世界の香辛料のことを綴っている。「新世界に大量にある香辛料aji(アヒー)は、ヨーロッパのコショウよりも価値がある。健康にとても良いため、アヒーなしで食べる者はいないほどだ」。中南米の原住民は当時、数十種もの香辛料を栽培していた。『General History of the things of New Spain』(1569)を書いたフランシスコ会修道士のベルナルディーノ・デ・サアグンは、アステカ時代のメキシコで60年以上を過ごした経験から、香辛料を用いた現地料理の幅広さに触れている。

 新世界の香辛料は、コロンブスによってpepperと名付けられたものの、旧世界のコショウとはまったく別物である。ナス科の仲間であり、トマトやジャガイモ、ナスなどの親戚に当たる。もっと具体的に言うなら、25種からなるトウガラシ属に属している。

 新世界の香辛料トウガラシは、旧世界にも急速に取り入れられることになった。インドには16世紀のはじめにポルトガル人によって持ち込まれ、重要なカレーの材料となった。トウガラシはその後、さらに東に伝わり、コロンブスの航海から50年もたたないうちに、中国や日本でも用いられるようになったのである。

 トウガラシはすべてが辛いわけではない。だが、爆発的な辛さのものもある。黒コショウのピリッとした辛みは、ピペリンと呼ばれるアルカロイドによるものだが、トウガラシが醸す燃えるような辛さは、主にカプサイシンと呼ばれる化合物による。

 カプサイシンは、実に頼りになる存在である。催涙スプレーとして、ジョギング中の人が強盗をやっつけたり、手紙を届ける郵便局員が犬から身を守ったり、ハイカーが熊を撃退するために使うことがある。牧場主は、羊に塗り付け、オオカミを撃退する。庭師はウサギやシカ、リスなどを追い払うのに使う。アステカでは、言うことを聞かない子どもを叩くのではなく、熱々のトウガラシの上に乗せて罰を与えていたそうだ。