取材現場から:ニカラグアの子どもたちに給食を

 ナショナル ジオグラフィックの写真家タイロン・ターナーは、国連世界食糧計画(WFP)と民間企業が協同する学校給食プログラムの取材で、中米ニカラグアの家庭を訪れた。そこでの母親の仕草が忘れられないという。

自宅で母親に髪をすいてもらう10歳の少女バニ。バニが通うニカラグアの学校では、国連世界食糧計画(WFP)が、マイケル・コース主催の「ウォッチ・ハンガー・ストップ」キャンペーンと共同で学校給食を提供している。(Photograph by Tyrone Turner / National Geographic Creative)

 私たちが訪れたのは、ニカラグアのロス・ペデルナーレス地域の山村。学校給食プログラムの支援を行っている学校の一つであるエル・プログレソ校では、各家庭が月に1度ずつ、寄付された食材を調理して子どもたちに提供していた。私たちはそこで10歳の元気な女の子、バニに出会った。彼女はすぐに自分の家族や村の人たちを紹介してくれ、私はバニの自宅を訪れて、撮影することになった。

 朝の支度の様子を撮影しようと、早い時間にバニの家を訪ねると、母親のマリアが彼女の髪をとかしていた。窓から差し込む光に照らされて、家具のほとんどない部屋にふたりの姿が浮かび上がる。家には電気が引かれているが、彼らは太陽が出ているあいだは、自然光以外は使わない。

 撮影の途中、バニが屋外の水道で歯を磨くために外へ出て行った。私は母親のマリアに尋ねた。「朝ごはんは? もう食べたのかい?」

 マリアは私を見て、すっと肩をすくめた。「わからない」とか「バニに聞いて」という意味ではない。朝食そのものがない、食事を作る材料さえないのだった。

豊かな土地なのに貧しい

 貧困と食料不足にあえぐこの村は、じつは豊かな自然に恵まれている。「ここでは何だって育ちますよ。ただ種を地面に植えさえすればいいんです」。ある農民は私にそう言った。

 しかしバニの家族をはじめ、村の半数近くの家庭は、小さな庭さえ持っていない。バニの父親のフアンは、「ホルナレロ」と呼ばれる日雇い労働者だ。フアンは筋肉質の痩せた体で、コーヒーやトウモロコシの収穫から家畜の世話まで、農場で頼まれた仕事をなんでもこなす。仕事の契約は季節ごとで、賃金は低い。コーヒーの木を襲うさび病をはじめとする深刻な病気のせいで主要な商品作物の収穫は減り、その結果フアンのような人々の収入も大幅に減少した。彼はほかの人の土地で働き、そこでもらう賃金で自分が収穫した作物を買っている。

学校で子どもたちの先頭を走るバニ。(Photograph by Tyrone Turner / National Geographic Creative)

 WFPの学校給食プログラムのような、食事を定期的にとれる仕組みを確立できれば、子どもたちの食生活は格段に改善される。地元のコミュニティがプログラムの運営に関わり、学校で食事を配ることによって、村人同士の絆はいっそう強くなる。誰もが食事の準備を担い、誰もがそこから利益を得る。

 バニの母親の肩をすくめる姿は、いまも私の心に焼き付いている。その仕草はあきらめの印ではなく、ニカラグアの山村に暮らす誇り高い家族からの、いまこそ行動のときだと訴えかけるメッセージなのだ。

(文・写真=Tyrone Turner/訳=北村京子)