第34回  琴欧洲親方を支えた故郷の味

ブルガリアはバラも有名。食べものにも使われ、ジュースやジャム、アイスクリームなどがある。これは日本では入荷の少ないバラのワイン。バラの風味が漂う甘めの味で女性に人気だ

 つくり方はタラトルとよく似ていて、細かく刻んだキュウリとニンニク、クルミなどを混ぜて塩・コショウで味を調えてできあがり、と伊藤さん。地方や家庭によって酢やマヨネーズを入れたりするそうだが、タラトルとの大きな違いは水分だけのようだ。

 それにもかかわらず、味はだいぶ違った。ねっとりとしていてぎゅっと濃縮されたコクがある。ただ、ヨーグルトの酸味はしっかりあって、さわやかな風味が舌に残る。「スネジャンカをつまみながらワインやブランデーを飲むのが最高なんです」とヨルダンさん。店には在日ブルガリア人もくるが、日本人が1皿を数人でシェアするのに対し、彼らは1人1皿注文するのが普通らしい。

 タラトルもスネジャンカも日常的に食べる家庭料理だそうだ。「それじゃ、ヨーグルトを切らすわけにはいきませんね」と言うと、そもそもブルガリアではヨーグルトは家庭でつくるものだとヨルダンさんは話す。

「もちろん、ヨーグルトのメーカーや種類もいろいろあります。でも、自分でつくる人が多いですね。だいたいどの家庭の冷蔵庫にも手作りのヨーグルトがありますよ。ブルガリアでは牛だけではなく、羊や山羊の乳でもヨーグルトをつくります。一番貴重なのは水牛のヨーグルト。固めで味も濃厚なんです」

 僕はあまりつくったことはないけれど、と言いながらヨルダンさんはつくり方を教えてくれた。約40度に温めた家畜の乳にヨーグルトかヨーグルト種菌を混ぜて、温度を保ちながら半日から1日置いておけばできるという。しかも、ブルガリアは農業国であり、都市部以外ではヨーグルトをつくるために家畜を飼っている家庭も多いそうだ。

「僕はトルコよりのトラキア地方、ノヴァ・ザゴラの出身です。両親は電気屋を営んでいましたが、田舎なので畑も持っていて休みの日は農業をしていました。牛乳は購入していたけれど、僕が小さい頃は飼っている羊の乳でヨーグルトをつくっていましたね。高校生になると一番美味しいからと山羊を飼い始めました。山羊の乳はクセがあるけれど薄くて人間の母乳に近いと言われているんです」

ヨルダンさん(右)と伊藤さん。ヨルダンさんはガドゥルカというブルガリアの伝統楽器の演奏家で店でも演奏している