第14回 クマムシをあやつる

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 クマムシをあやつる。といっても、クマムシをこちらの意のままに動かしたり、ましてや洗脳してお布施をさせたりするわけではない。ここでは、クマムシをある場所から別の場所に移すための方法を紹介したい。

 クマムシは基本的に水生生物であり、水の中でのみ活動できる。とはいえ、かれらは泳げない。水を張ったシャーレの中では、底に沈んでもがいている。この中にいる体長1mm以下のクマムシを捕まえるには、手づかみはもちろん、ピンセットでも無理だ。もっとも、仮にピンセットでクマムシをつまめたとしても、その体は簡単につぶれて死んでしまう。活動状態のクマムシの体はぶよぶよしていてもろいのだ。

 そこで登場するのが、先端を極細にしたガラスピペットである。このガラスピペットは「パスツールピペット」とよばれる。このパスツールピペットにゴムキャップをつけたものが、通称「クマムシ操作装置」だ。ちなみに、この装置の名は、たった今私が思いついて名付けた。

 この操作装置を使ってクマムシを水ごと吸い取り、別のシャーレなどに移すことができる。顕微鏡をのぞきつつ、操作装置の先端をクマムシまで近づけて吸い取るのは、なかなか難しいが。

 クマムシの体は小さいため、先端の穴が大きな市販のパスツールピペットを使うと、クマムシを吸い取るときにゴミなども一緒に吸い取ってしまう。そのため、ピペットの先をガスバーナーなどで細くする必要があるのだ。こう書くと簡単そうに聞こえるが、よい操作装置を作るには熟練した腕が必要だ。そして折れやすいために、いくつも作る必要がある。よい道具を準備する能力があって、はじめてよいクマムシ研究ができるのだ。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad