白亜紀の水辺に君臨した、巨大な肉食恐竜スピノサウルス。若き古生物学者の奮闘で新たな化石が見つかり、この恐竜をめぐる謎が解き明かされつつある。

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白亜紀の王者スピノサウルス

白亜紀の水辺に君臨した、巨大な肉食恐竜スピノサウルス。若き古生物学者の奮闘で新たな化石が見つかり、この恐竜をめぐる謎が解き明かされつつある。

文=トム・ミューラー/写真=マイク・ヘットワー

 20世紀初頭の古生物学者で、ドイツ南部バイエルンの貴族エルンスト・シュトローマーの一行は、エジプト領内のサハラ砂漠へ何度か長い遠征を行った。

 そこでシュトローマーは恐竜、ワニ、カメ、魚など、およそ45の分類群にわたる化石を発見した。
 なかでも注目すべきは新種の恐竜だった。長さ1メートルの顎と円錐形の歯をもつ、巨大な肉食恐竜だ。背には高さ1.7メートルほどの大きな帆のようなものが、背骨から上方に長く伸びていた。シュトローマーはその生物を、スピノサウルスと名づけた。

スピノサウルスは何を食べていたのか

 シュトローマーにとってスピノサウルスは生涯の謎だった。2体の部分骨格を見つけた彼は、この奇妙な生物を理解しようと何十年も苦闘した。脊椎から上へ長く伸びた骨は、バイソンの肩にあるような「こぶ」を支えていたと当初は考えたが、後にはカメレオンなどの背にみられるような、帆に似た突起の一部ではないかと推測するようになった。スピノサウルスの顎は、捕食恐竜にしては幅が狭い。また獣脚類の肉食恐竜の歯はほとんどが縁にギザギザの並ぶナイフ状だったのに対し、スピノサウルスはワニに似た、ギザギザのない円錐状の歯をしていた。この動物は「高度に特殊化」していたとシュトローマーは結論づけたが、それ以上は踏み込みようがなかった。

 スピノサウルスなど北アフリカ産の化石をめぐっては、「シュトローマーの謎」とも呼ばれるさらに大きなミステリーも存在する。古今を問わず、ほとんどの生態系では、草食動物は肉食動物よりもはるかに数が多い。ところが北アフリカの化石記録では、東はシュトローマーの発掘したエジプトから、西はモロッコのケムケム層に至るまで、正反対の状況にあるのだ。

 北アフリカには3種の巨大な肉食恐竜がいた。全長12メートルの機敏なバハリアサウルス、「アフリカのTレックス」ともいうべき全長12メートルのカルカロドントサウルス、そしておそらく最大のスピノサウルス。シュトローマーは、獲物となる大型の草食恐竜もいたはずだと考えた。だがその化石はあまり見つかっていない。この矛盾に対し、堆積の過程で異なる時代の化石が混ざってしまったとする説や、化石ハンターが高値のつく大型肉食恐竜を好んで探すせいだといった諸説が唱えられてきた。

 2008年、若手古生物学者のニザール・イブラヒムは思いがけない偶然から、スピノサウルスの新たな標本をモロッコで入手し、その後、苦労の末に正確な発見地もつきとめた。彼ならシュトローマーの謎に、より納得のいく答えを出せるはずだ。

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2014年10月号でどうぞ。

編集者から

 Tレックスをもしのぐ巨体を誇ったという、肉食恐竜スピノサウルス。背中になぜか大きな帆をもつルックスは、かなり強烈なインパクトがあります。でもその姿以上に魅力を感じたのは、スピノサウルスをめぐるいくつもの物語でした。
 モロッコで手に入れた化石の意外な正体に気づいた古生物学者が、おぼろげな記憶を頼りに異国の街や発掘現場で化石ハンターを探し回る…まるで映画のような展開ではありませんか。100年前にエジプトで化石を見つけたシュトローマーの逸話は有名ですが、現代の「化石探偵」たちの仕事も、負けず劣らず夢とロマンに満ちています。
 骨の化石やさまざまな手がかりをつなぎ合わせ、パズルのように生態や食性を解き明かしていく過程にもわくわくしました。その成果は付録のポスターに、迫力満点のイラストで再現されていますので、ぜひご覧ください。(編集H.I)

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