未来の食料危機の回避策は、最先端の遺伝子工学を取り入れた品種改良なのか、生態系に配慮した有機農法なのか。食料増産に必要な「次の一手」を探る。

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シリーズ 90億人の食 次世代の緑の革命

未来の食料危機の回避策は、最先端の遺伝子工学を取り入れた品種改良なのか、生態系に配慮した有機農法なのか。食料増産に必要な「次の一手」を探る。

文=ティム・フォルジャー/写真=クレイグ・カトラー

 畑のキャッサバに、ある異変が起きていた。
「もしかして、水が多過ぎたのでしょうか」
 高さ2メートルほどの低木から弱々しく垂れ下がった葉を触って、農家の男性がそうつぶやいた。葉は黄色く枯れている。
「それとも、日差しが強過ぎたのでしょうか」

 タンザニア最大の都市ダルエスサラームから北に約60キロ。インド洋沿岸の小さな町バガモヨ近郊の畑で、その男性ラマダニ・ジュマはキャッサバを育てている。3月の雨の朝、幼い息子2人を連れて畑に出ると、ダルエスサラームのミコチェニ農業研究所から派遣された28歳の農業技術者デオグラティウス・マークと話し合った。問題は日差しでも雨でもないと、マークは説明した。原因は、肉眼では見えない小さな殺し屋、ウイルスだ。

 ウイルスは2種類あり、コナジラミという小さな害虫に媒介される。一つは葉を枯らすウイルス。もう一つは、食用にするイモを腐らせるキャッサバ褐条病のウイルスだ。収穫期まで感染に気づかないことが多く、壊滅的な被害をもたらす。ジュマがイモを掘り出して、くわで割ると、白い身の一部が茶色く腐っていた。

 収穫を1カ月繰り上げないと、被害が広がり、市場に出す分はおろか、家族で食べる分も確保できなくなる。キャッサバはどれくらい重要な作物ですかとジュマに尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。「キャッサバがすべてだ」

「私たちみたいな農家を助ける手立てはありますか?」

 タンザニアでは自給自足の小規模農家が労働人口の大半を占める。アフリカ全体では、家族経営の小規模農家が作物生産の9割を担い、キャッサバを主食とする人口は2億5000万人を超える。キャッサバはやせた土地でも育ち、熱波や干ばつにも耐える。コナジラミの病虫害さえなければ、21世紀のアフリカにとって最適な作物だ。しかし地球温暖化でコナジラミの生息域は広がり、ジュマの畑を襲ったウイルスはすでに東アフリカ全域に蔓延している。

 ジュマの隣人のシジャ・カゲムベにも話を聞いた。同様の被害に遭っている彼は、マークの説明を黙って聞いたあと、こう尋ねた。「私たちみたいな農家を助ける手立てはありますか?」
 この問いに答えることが、今世紀で最大の課題の一つになるだろう。

 20世紀後半、品種改良を軸とした「緑の革命」は小麦やコメの大幅な増産をもたらし、その当時に予見されていた食料危機を回避した。
 気候変動の影響で、途上国の小規模農家とその作物の消費者が大打撃を受けるおそれがある21世紀の今こそ、もう一度、新たな緑の革命を起こす必要がある。

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2014年10月号でどうぞ。

編集者から

 異なる品種同士を交配し、苗を育て、有望な株を選ぶ作業をひたすら繰り返す、というのが品種改良に対する私のイメージでしたが、今はそれだけではないようですね。育種期間を短縮するために、苗のDNAを解析し、目的の遺伝子をもつ個体だけを選抜する方法もあることを、この特集で知りました。とはいえ、それが可能なのは、先人たちが長年蓄積してきた膨大な知識があるからこそ。本誌60~61ページのグラフィックがそれを物語っています。幾多の育種家たちの苦労を思いながら、今日もご飯をいただくことにします。
 来月号のシリーズ「90億人の食」は、豪華2本立て。「肉を食べること」と「食品廃棄物」について考えます。どうぞご期待ください。(編集T.F)

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