第13回 アーティスティックな卵

(画像クリックで拡大)

 クマムシは卵を産む。コケを水に浸しておくと、コケの中から卵が転がり出てくることがある。よく見ると、それらのクマムシの卵をみつけられるかもしれない。クマムシの卵の直径は概して数10マイクロメートルであり、非常に小さい。倍率の低い顕微鏡で探すことは、なかなか難しい。さらに、当たり前だが、あちこち動き回るクマムシの幼体や成体とは異なり、クマムシの卵は動かない。小さくて動かないものは、非常にみつけにくいのだ。

 さて、クマムシの卵はひじょうにアーティスティックな形をしている。卵の形は種類によって異なるため、クマムシの種類を見分ける大事な指標となっている。ある種類のクマムシの卵は金平糖のようであり、またある種類のものは表面に小さなイソギンチャクのような突起がびっしりとくっついている。さらにまた別の種類のものは、無数の毛で覆われていたりする。どれも不思議な形だ。クマムシの卵は自然が創作したミクロ芸術である。

 なぜクマムシの卵には、このような突起物がついているのだろうか。これは、卵がコケにひっかかりやすいようにするための適応だと考えられる。卵の表面がツルツルだと、雨が降ったときなどにコケ、つまり生息地の外の不適な環境に流されやすいはずだ。そうなれば、卵から孵ったこどもが餌にありつけなくなる可能性が非常に高い。こう考えると、卵の突起物には、たいへん重要な役割があることになる。

 それにしても、「コケにひっかかる」という共通の機能をもつ構造が、収斂せずにここまでバラエティに富んだ形で表現されていることは、不思議である。やはり、クマムシたちはそれぞれに芸術家魂をもっているのかもしれない。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad