旧石器時代の食事「パレオダイエット」が健康に良いと、米国で話題だ。だが、狩猟採集民の暮らしから見えてきたのは、太古の食生活の意外な姿だった。

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シリーズ 90億人の食 食べ物と人類の進化

旧石器時代の食事「パレオダイエット」が健康に良いと、米国で話題だ。だが、狩猟採集民の暮らしから見えてきたのは、太古の食生活の意外な姿だった。

文=アン・ギボンズ/写真=マチュー・パレイ

 2050年には世界の人口が今より20億人増え、必要な食料もその分だけ多くなる。今後数十年間に人々が何を食べるかは、地球環境に大きな影響を及ぼす重要な問題だ。
 発展途上国では肉と乳製品の消費が伸びている。だが単純に言えば、誰もが肉と乳製品を中心とした食生活を送るようになると、穀物や果物、野菜を主に食べる場合よりも、地球の資源を多く消費することになる。

旧石器時代の食生活を送れば健康になれるのか

 およそ1万年前まで、人類は狩猟と採集、漁労で食料を得ていた。農耕が始まって耕作地が広がるにつれ、狩猟採集民が使える土地は狭まり、今ではアマゾンの森林やアフリカの草原地帯、東南アジアの離島、北極圏の永久凍土地帯などに残るだけとなった。狩猟採集民が消滅する前に、太古の食習慣と生活様式を知る手がかりをできるだけ集めておこうと、人類学者たちは精力的に調査を進めている。

 ボリビアのチマネ族や北極圏のイヌイット、タンザニアのハッザ族といった狩猟採集民を調査してわかったのは、彼らが昔から高血圧や動脈硬化、循環器系の病気になりにくかったという事実だ。現代人の食事は、太古の人類が進化の過程で食べていたものとはかなり違っていると、多くの学者が考えている。

 人類はおよそ260万年前から農耕が始まる1万年前まで、野生の動植物を食べながら進化してきた。農作物を中心とした食生活に人体が適応するには、1万年では短過ぎるのではないか――。米国では今、そんな考え方をもった人たちが、旧石器時代の食事に注目し、「パレオダイエット」や「原始人食」と呼ばれる食事法を実践している。

 旧石器時代の食習慣は「人類の遺伝的な特質に合った唯一の理想的な食習慣だ」と、米コロラド州立大学のローレン・コーデインはその著書『The Paleo Diet(パレオダイエット)』で述べている。コーデインは世界各地に残る狩猟採集民の食習慣を調べ、彼らの73%が摂取カロリーの半分以上を肉からとっていると結論づけて、旧石器時代の食習慣にならった独自の食事法を提唱している。
 その内容は脂肪分の少ない肉と魚をたっぷり食べ、人類が調理と農耕を始めた後に食べるようになった乳製品や豆類、穀物は避けるというものだ。狩猟採集時代のような食生活を送れば、心臓病や高血圧、糖尿病、がん、そして、にきびに至るまで、現代人を悩ます“文明病”を予防できるとコーデインらは主張する。

 なかなか魅力的な説だが、すべての人間が肉中心の食事に適応してきたと言いきれるだろうか。化石を調べる古人類学者も、現代の狩猟採集民を研究する人類学者も、ヒトの進化と食習慣の関係はもっと複雑だったと考えている。

※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2014年9月号でどうぞ。

編集者から

 狩猟採集民はそれほど頻繁に肉を食べているわけではない、というのが意外でした。タンザニアのハッザ族は狩りの成功率が5割ほどしかなく、摂取カロリーの7割を植物から得ているとのこと。狩りの苦労は、本文冒頭のチマネ族のエピソードからもひしひしと感じられますが、2009年12月号の「ハッザ族」2012年2月号の「最後の洞窟の民」でも詳しくレポートしています。この二つは、私がこれまでに担当した中でも、読者の皆さんにお勧めしたい大好きな特集ですので、本特集と併せて読んでみていただけると嬉しいです。
 来月のシリーズ「90億人の食」では、バイオテクノロジーを使った品種改良について考えます。(編集T.F)

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