第11回 クマムシ界の横綱、ヨコヅナクマムシ

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 コケからみられるクマムシシリーズも、今回で第4回目となった。今回は、クマムシ界の横綱ことヨコヅナクマムシについて紹介したい。

 ヨコヅナクマムシは、シロクマムシやオニクマムシと同じ真クマムシの仲間である。真クマムシの仲間のほとんどは体が半透明で白っぽい色をしているが、ヨコヅナクマムシを含むツメボソヤマクマムシ属(Ramazzottius属)は赤褐色をしているのが特徴的だ。さらに、真クマムシの他のメンバーに比べると、体の形もずんぐりぽっちゃりしていて、なかなか愛嬌がある。ちなみに、ヨコヅナクマムシには目(眼点)がない。では、なぜ上のイラストのヨコヅナクマムシ には目があるのだろうか。それは、私の心眼に映ったヨコヅナクマムシ像 が描かれているからである。

 このヨコヅナクマムシを含んだツメボソヤマクマムシ属の仲間を日本で見つけるのは、かなり困難である。前回紹介したヨロイトゲクマムシもレアキャラだが、ツメボソヤマクマムシ属の仲間に遭遇する確率は、さらにその100分の1以下と推測される。レア中のレアな存在なのだ。私はヨコヅナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)を札幌市を流れる豊平川にかかる橋の上のコケから見つけた。

 さて、ヨコヅナクマムシはその名の通り、クマムシの中でももっとも高い乾燥耐性をもつことで知られる。

 クマムシが活動状態から乾眠に移るとき、ゆっくりと脱水が起きる必要がある。速く乾きすぎると、乾眠に入れずに死んでしまうのだ。だが、ヨコヅナクマムシの種類は、比較的急速な脱水でも乾眠に入れるのである。この事実は、かれらが乾燥ストレスに対して、とりわけ高度な耐性システムをもつことを意味している。

 このヨコヅナクマムシは、オニクマムシと同様に、飼育可能な数少ないクマムシ種でもある。ただし、肉食のオニクマムシとは異なり、ヨコヅナクマムシはもっぱら藻類のクロレラを食べる、ベジタリアンでおとなしいクマムシである。

 このヨコヅナクマムシの飼育に初めて成功したのも私たちである(Horikawa et al. 2008)。このヨコヅナクマムシの生態の詳細については、また追って詳述したい。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad