第10回 最高にクールなヨロイトゲクマムシ

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 コケからよくみられるクマムシとして、シロクマムシとオニクマムシを紹介した。今回は「見つけたらラッキー」なレアキャラを紹介したい。それはヨロイトゲクマムシとよばれる仲間だ。その名の通り、鎧のような形態の外皮をもつ。もう見た目がかっこいい。クマムシの中でも最高にクールな部類に入ると言っても、過言ではない。色は濃い緑色をしており、動きはとてつもなく緩慢である。顕微鏡でそのスローな動作を見ていていると、「よくこんなにのんびりしていて淘汰されないな」と思うほどだ。クマムシというよりはナマケモノムシと呼んだ方がしっくりくる。

 さて、クマムシ(緩歩動物門)には大きく真クマムシと異クマムシのふたつのグループに分かれる。シロクマムシやオニクマムシのような、見た目が比較的細長くてブヨブヨした感じのクマムシが、真クマムシである。それに対し、異クマムシの仲間には、このヨロイトゲクマムシのように発達した外皮や突起をもつものが多い。進化学的には、異クマムシの方が起源が古く、そこから真クマムシが出現したとされている。

 コケの中に生息するヨロイトゲクマムシの中には、コケのエキスを摂取する種類がいるようだ。しかしながら、ヨロイトゲクマムシの生態は謎に包まれたままだ。というのも、ヨロイトゲクマムシをはじめとした異クマムシの仲間の継代飼育はいまだに成功しておらず、その生き様を観察することができないからである。言い換えれば、このクールな生きものの飼育に成功するだけでも、クマムシ学の歴史に大きな金字塔を打ち立てることになるのだ。

 Webナショジオを愛読している皆さん。もしよければ、クマムシ学240年の歴史を塗り替えるような、このロマンある研究にチャレンジしてみてはいかがだろうか。飼育実験自体は、特別に高価な設備がなくても 遂行できる。もしあなたに情熱と幸運があれば、私たちのようなプロのクマムシ研究者を出し抜くことも可能なのだ。チャンスはプロ・アマ関係なく与えられているのだから。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad