第9回 クマムシ界の猛獣、オニクマムシ

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 乾燥したコケからよくみられるクマムシとして、前回はシロクマムシをとりあげた。このシロクマムシの次によくみられるのが、オニクマムシという種類のクマムシだ。

 オニクマムシは「オニ」の名の通り、体がとても大きい。「大きい」といっても、あくまでも他の種類のクマムシと比較したときの話であり、体長はおよそ0.5~0.7mmほどである(他の種類のクマムシの多くは体長が0.2~0.5mmほど)。

 実体顕微鏡でのぞくと、オニクマムシが体を左右に大きく振りながら歩く姿を観察できる。その動きはがさつさと獰猛さに満ちている。実際、オニクマムシは肉食性で、ヒルガタワムシや他の種類のクマムシを捕まえて食べる、ハンターである。まさにクマムシ界の猛獣、ミクロワールドにおける百獣の王の威厳に満ちている。

 また、オニクマムシは人工飼育系が確立された数少ないクマムシの種類でもある。慶応大学の鈴木忠氏は、寒天培地の上で餌となるヒルガタワムシを与えることで、オニクマムシの飼育に成功した。鈴木氏はさらに、人工飼育環境下でのオニクマムシの生き様を観察記録し、このクマムシの寿命や生涯に産む卵の数などが明らかになった。クマムシの生態を解き明かす上で、鈴木氏はたいへん重要な研究成果をあげたのである。

 筆者もオニクマムシを飼育した経験がある。この飼育のエピソードについては、また追って紹介したい。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad