第7回 コケの中の乾燥生物フレンズ

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 水の入ったシャーレに浸したコケからは、クマムシの他にも微小動物がよく這い出てくる。そいつらこそ、ヒルガタワムシとセンチュウだ。

 顕微鏡で観察すると、ヒルガタワムシはヒルやシャクトリムシのように「にょーん にょーん」とシャーレのそこを這いつくばって移動するようすがみえる。センチュウは「うねうね」とのたうち回る。ヒルガタワムシとセンチュウの大きさはだいたい1ミリメートル以下で、クマムシとほぼ同じくらいである。

 ヒルガタワムシやセンチュウは肢もなく、クマムシに比べると可愛くない(筆者の主観)。ヒルガタワムシは輪形動物門、センチュウは線形動物門に属する。輪形動物も線形動物も、海から陸まで多様な環境にみられる。クマムシと同様に両者とも無脊椎動物だが、クマムシが属する緩歩動物門とは、系統学的に離れたグループの仲間である。

 クマムシとはまったく異なるコケ仲間のヒルガタワムシとセンチュウだが、乾燥しやすい場所に生えるコケに適応しているために、やはりクマムシと同様に乾眠能力をもつ。いわば、乾燥生物フレンズといったところか。

 さて、野外のコケの中でのクマムシ、ヒルガタワムシ、センチュウのそれぞれの関係はどのようなものだろうか。これらの生態についてはあまり詳しく調べられていないが、肉食性のクマムシの中には、ヒルガタワムシやセンチュウを捕食するものがいる。また、クマムシを捕食する肉食性の種類のセンチュウもいる。乾燥生物フレンズだが、お互いに食べたり食べられたりしているわけである。

 ふだん人々が気に留めないような道端のコケの中でも、ドラマティックな生態系が形作られていることがお分かりいただけるだろう。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad