第3回 しょぼいチイ(地衣)

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 前回はクマムシがしょぼいコケを好んで棲みついていることを紹介した。今回はしょぼい地衣(チイ)について紹介しよう。

 地衣類は藻類と菌類が共生した生物で、菌類が作った体の中に藻類が棲みついている。外見がコケに似ているが、コケのような植物ではない。街路樹やコンクリート製の壁の表面を、白色や緑色の膜のようなものが覆っているのを見たことは無いだろうか。その物体の正体は地衣類であることが多い。

 クマムシは樹表の地衣類にも多く棲んでいる。そしてコケの場合と同様、地衣類においてもクマムシが好むものとそうでないものがある。やはり見た目がしょぼくてカラカラに乾燥した地衣類をクマムシは好んで棲みつくのだ。湿気の高い森の樹表に生えるじめじめとした地衣類は、クマムシの好みのタイプではない。

 クマムシが棲息する地衣類の代表に、ウメノキゴケがある。ウメノキ「ゴケ」というまぎらわしいネーミングだが、れっきとした地衣類の一種だ。乾燥した地衣類の中ではクマムシは乾眠しており、雨が降ると吸水して活動をはじめる。もちろん、地衣類も乾眠能力がある。カラカラの乾眠状態の地衣類が宇宙空間で2週間晒されたあと地球に帰還した後も生きていたという記録も有るくらいだ。

 カラカラのコケや地衣類はクマムシをやさしく包むゆりかごである。クマムシがコケや地衣類とともに宇宙空間に飛ばされ、地球と似たような環境の惑星にたどり着いてそこで繁殖するということも100%ありえないような話ではない。クマムシが支配するそんな惑星のことを想像してみるのも、なかなか楽しい。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad