第2回 しょぼいコケ

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 実は、クマムシは、私たちの身近なところにもいる。市街地に生えるコケの中に、多くのクマムシが棲んでいるのだ。路上のすみっこや、駐車場などをよく見てみると、コケが点々と生えているのがわかる。普段、私たちは街を歩いているとき、足もとにあまり注意を払わないので、気付かない読者も多いだろう。

 ただし、どんなコケにでもクマムシがいるとは限らない。クマムシが好んで棲みつくようなコケは、カラカラに乾いた見た目がしょぼい貧弱なやつである。

 ギンゴケという種類のコケが、この条件を満たす場合が多い。いつも湿っていて青々(というよりは緑々)としていて、もっさりとしたコケには、クマムシはあまりいない。カラカラのものがクマムシスタンダードである。

 さて、クマムシは1000種以上が知られているが、基本的にこれらはすべて水生である。周囲に水が無ければ活動できないのだ。だが、陸上に棲んでいる種類のクマムシは、周囲が乾燥すると脱水して「乾眠」とよばれる仮死モードに移行できる。この乾眠状態で雨の降らない乾燥した時期をやり過ごし、また降雨があれば吸水して活動モードに戻る。

 この乾眠能力は、クマムシが住処とするようなギンゴケをはじめとしたコケも同様にもっている。クマムシはこの特殊な能力により、他の生物にとって過酷な環境で生活できるのだ。社会の中で競争を避けて生き抜く知恵を、クマムシは教えてくれる。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad