第4回 名作『白鯨』の元ネタは、もっと壮絶だった

クジラの逆襲

 運命の日は、出航から1年3カ月後、1820年11月20日に訪れた。
 エセックス号がマッコウクジラの群れを発見し、1頭ずつ狙い撃ちしていたとき、考えられないことが起こった。巨大な1頭が、群れを離れて船に突進してきたのである。

 クジラは船に激突し、乗組員たちは甲板に投げ出された。船長は乗組員に指示を出そうとしたが、船は制御不能に陥っていた。クジラは向きを変え、再びこちらに突進してきた。巨大な背中がまたしても船体に激突し、船は大きく揺れた。20人の乗組員はわずかな食糧をできるだけかき集めて、3艘の手漕ぎ舟に次々に乗り込んだ。10分もしないうちにエセックス号は転覆した。

 28歳のジョージ・ポラード・ジュニア船長は現在位置を南米大陸の西、3700キロと推定し、64日間の旅を乗り切れるだろうと考えた。逆算して食糧を配給すると、1人1日当たりパン数十グラム、小さな固いビスケット1つ、水およそ0.3リットルになった。健康な大人に最低限必要な食物摂取量のおよそ3分の1、最低限必要な水分量の半分だ。
 11月30日までの10日間で770キロ進み、食糧はまだあった。男たちは空腹で疲れていたが、意気は高く、ポラードは、みんなこの旅を乗り切れそうだと楽観的に考えた。

捕鯨船エセックス号の航路と、難破後の漂流ルート。『本当にあった 奇跡のサバイバル60』より(画像クリックで拡大)