「本マグロ」とも呼ばれ、高級なすしネタとして人気のクロマグロ。乱獲が懸念されるマグロの王者の、大西洋での資源管理の実態に追った。

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クロマグロ 乱獲の果てに

「本マグロ」とも呼ばれ、高級なすしネタとして人気のクロマグロ。乱獲が懸念されるマグロの王者の、大西洋での資源管理の実態に追った。

文=ケネス・ブラウワー/写真=ブライアン・スケリー

 2013年1月、東京・築地市場の初競りで1匹のクロマグロに1億5540万円の値がついた。これには新春の「ご祝儀相場」や落札者の派手な宣伝行為という側面もあったのだろう(2014年の初競り最高値は736万円だった)。とはいえ中型のマグロでも1匹100万~200万円になるのが普通だから、21世紀の日本人がいかにクロマグロ(本マグロ)のすしを偏愛しているかがよくわかる。

 クロマグロは、乱獲の憂き目に遭っている魚の代表格といえるだろう。この魚は太平洋と大西洋に生息するが、大西洋西部で生まれるクロマグロの生息数は、1970年から現在までに64%も減少した。

マグロ資源管理のお粗末な実態

 クロマグロは広い海域を回遊する。つい30年前までほとんどわからなかったその回遊の実態は、追跡技術の進歩によって少しずつ解明されてきた。捕獲したマグロにタグを装着して放すことで、移動距離やルート、潜水パターンといった貴重な情報が得られるのだ。

 研究を進めるマグロ研究保全センター(TRCC)は米国カリフォルニア州のモントレーにある。所長バーバラ・ブロックの研究室は、ちょっとした展示室のようだった。壁やキャビネットの扉など至るところに、クロマグロの現状を示すデータや海図が貼られている。

 ただ、その現状はあまり喜ばしいものではない。「タイセイヨウクロマグロの推定産卵親魚量(1950~2008年)」と題されたグラフを見ると、メキシコ湾でも地中海でも産卵するクロマグロの数が急速に減り、限りなくゼロへと近づいている。
 タイセイヨウクロマグロの分布図もあった。タグによる追跡調査の結果を基に、色とりどりの小さな円が地図上にいくつも描かれている。なかでもブロックが強い関心をもっているのは、「ICCATライン」と呼ばれる境界線とクロマグロの分布との関係だ。

 ICCATとは、タイセイヨウクロマグロの漁獲量を管理する「大西洋まぐろ類保存国際委員会」の略称である。1981年には北大西洋上の西経45度にICCATラインを設定し、東と西のクロマグロを分けて資源管理を行うことにした。だがTRCCが作成した分布図からは、興味深い事実がわかる。広い大西洋に点在する餌場のすべてで、東部生まれと西部生まれのクロマグロが混在している。ICCATラインに科学的な根拠がないことは一目瞭然だ。

 問題点はまだある。違法操業による漁獲量がかなりの量にのぼることが調査で判明しているにもかかわらず、ICCATはこれまでのところ、どこまで容認するかの線引きすらできていないのだ。地中海で生まれる東部のクロマグロ資源は確かに量が多いが、ICCATは研究者の提言をはるかに上回る漁獲可能量を設定。産卵期の禁漁や、漁獲可能量の引き下げを求める提言も、無視を決め込んできた。

 2008年、ICCATは第三者による独立審査を実施した。著名な漁業管理の専門家や水産学者からなる審査委員会は、ICCATによる東部資源の管理について、「国際的な不名誉」であり「漁業管理に名を借りた茶番」であると切って捨てた。2009年にはモナコが、タイセイヨウクロマグロをワシントン条約の取引禁止対象に加えてはどうかと提案して、マグロをめぐる状況に一石を投じた。

 さすがのICCATも危機感を抱いたか、以後は違法操業への対策や、時代遅れの資源評価手順の改定などに向けて、重い腰をようやく上げつつある。だが組織や運営は従来のままで、加盟国の水産業界から圧力を受けやすいことに変わりはない。

※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 今回ぜひ見ていただきたいのが、本誌80~81ページの「泳ぎを極めた驚異の魚」と題したイラストです。マグロが泳ぎをやめると窒息して死ぬことは知っていたのですが、冷たい海で体温を維持する仕組みは恥ずかしながら知らず、「本当にスゴイ魚だ!」と編集中に感動して、イラストからしばらく目を離せませんでした。いったいどうやって体温を維持しているのか? 答えはぜひ本誌でご覧ください。ちなみに、iPad版ではイラストのマグロが動きます。ひれをたたんで泳ぐ姿がとてもかわいいので、購読されている方はお楽しみに~(編集T.F)

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