第2回 自分の腕を切り落として窮地を脱出した男

自分の腕を切断する

「僕はナイフを取り出し、上腕部に止血帯を巻いた。サイクリングショーツを使った。それから仕事にとりかかった」

 ナイフの刃はなまくらになっていて、前腕の骨を切断できなかったので、骨を折るしかなかった。岩の縁を支点にして、全体重をかけて手を引きちぎろうと、両脚を踏ん張った。苦痛に満ちた数分間が過ぎ、ボキッという銃声ほど大きな音がして、曲がりくねった岩の監獄にこだました。橈骨が折れた音だった。さらに引っ張り続けて耐えがたい数分間が過ぎ、前腕の外側にある尺骨が折れた。

 今度は腕に止血帯を巻き、カラビナで紐をねじって締め上げた。それから、ナイフの鈍った刃で前腕の筋肉、神経、腱を切り取り始めた。

 完全に切断するまで1時間かかった。

片腕の懸垂下降

 ラルストンはよろけながら岩から後ずさりした。目の前3メートルのところに、岩に挟まれた自分の腕があった。これで5日ぶりに自由に動けるようになった。ついにやったのだ。だが、まだ安全とはいえなかった。
 救急セットを取り出し、消毒用のクリームを塗り、切断したところをできるだけ丁寧に包帯で巻いた。それから水筒バッグで間に合わせの吊り包帯を作り、登山用具をまとめた。

 大量の血を流しながら、ラルストンは出発前に予定していたルートが、大きな峡谷に合流する地点までたどりついた。そこから峡谷の底までは25メートルの高低差がある。腕は1本しかなく、いつ気を失ってもおかしくない状態だったが、アーロンはどうにか支点を確保して、下の埃っぽい岩まで無事に懸垂下降することができた。ザイルをぶら下げたままにして、元の世界に戻るべく、よろよろとした足取りで歩き始めた。