第2回 自分の腕を切り落として窮地を脱出した男

 翌日の朝、暖かい日差しが狭い峡谷の底を照らした。だが日差しはたった15分しかとどまってはくれなかった。ラルストンは無理にでも楽観的に考え続けようとした。それから残り少ない貴重な水と食糧の消費を制限し始めた。
 2日目が過ぎ、3日目が過ぎても、まだ脱出できなかった。水と食糧が底をつきかけ、幻覚が見えるようになっていた。「家族や友人の姿が見えたような気がした。それが慰めになった」とのちにラルストンは語っている。

 3日目の月曜日、ラルストンは挟まった手を切断することにした。だが、ナイフは岩を削ったせいですっかりなまくらになり、皮膚を切り裂くのがやっとだ。もう少し待ってみることにした。
 ラルストンは山岳救助の手順をよく知っていた。もし職場の誰かから同僚が行方不明だと通報があったとする。警察は24時間待ってから、行方不明だと判断することになっている。つまり救助隊が出動するのは水曜日だ。彼は小便を溜め始めた。

『本当にあった 奇跡のサバイバル60』より(写真クリックで拡大)

 水曜日、ラルストンはビデオカメラを取り出し、両親への別れのメッセージを記録した。峡谷の壁に自分の名前、生年月日、そして「RIP(安らかに眠れ)」と刻みもした。今や彼は溜めておいた小便をすすって命をつないでいた。
 幻覚がずっと消えなかった。そんなとき、小さな男の子が幻覚に現れた。彼はそれを、将来の自分の子どもだと思った。その子に会うには脱出しなければ。今すぐに。