第2回 自分の腕を切り落として窮地を脱出した男

技術を駆使して峡谷を攻略

 マウンテンバイクで砂漠を横切り、ブルージョン・キャニオンの入り口に着くと、自転車を木につないだ。そしてキャニオニング(峡谷探検)を開始すべく、曲がりくねった谷に降りていった。キャニオニングでは、ザイルの技術だけでなく、よじ登り、這い登り、ジャンプし、滑り降りる、といった峡谷を通り抜けるためのあらゆる技術を駆使する。

 昼前に、ラルストンはすでに峡谷の大部分を横断していた。この峡谷を抜ける最後の懸垂下降まであと150メートルの地点で、幅90センチほどの裂け目に入った。小峡谷の多くがそうであるように、そこにはいくつもの大きな岩が挟まっていた。ほとんどの岩は隙間なくがっちりと挟まっていて、大昔から微動だにせず存在している。しかし、自然は常に形を変えていく。ぐらぐらと揺れたり、滑り落ちたりする岩も少なくない。

 その岩も、しっかりと安定しているようだった。
 ラルストンは岩の表面をよじ登ると、上に立った。そして反対側に這い降りようとしたときだ。重さ約360キロの岩が動いた。音を立てて、数十センチ滑ったかと思うと、塵が舞い上がり、ラルストンと一緒に転がった。そして動きだしたときと同様、突然止まった。

 ラルストンは頭を上にした姿勢で着地していて、無事に危機を逃れたかに見えた。ところが、難を逃れてはいなかった。右腕が岩と壁のあいだに挟まって、押し潰されていたのだ。

岩にとらわれる

 初めのうちは自分の愚かさに怒りがわいたが、すぐに落ち着いて考えるようになった。気持ちを静め、いくつかの選択肢を検討した。
 人が来ない場所を選んでいるので、他の登山者が見つけてくれる可能性はきわめて低かった。おまけに自分がここに来ていることを、誰にも知らせていない。

 自力で脱出を試みるしかない。ラルストンは安物のナイフで岩や壁を少しずつ削り始めた。だが10時間削り続けても、ほんの一握り分の砂がとれただけだった。むしろ、岩が手を挟んでいる状態なので、削れば削るほど、岩はますますがっちりと手を挟み込んでいく。
 今度はザイルを使って、間に合わせの巻き上げ機を作り、岩を持ち上げようとした。岩はびくともしなかった。夜になって零度近くまで下がると、ザイルを巻いて体を温めた。