第1回 映画『キャプテン・フィリップス』で描かれなかったもう一人のヒーロー

アデン湾。(Vlad Galenko/Shutterstock)(写真クリックで拡大)

 2014年のアカデミー賞にもノミネートされた映画『キャプテン・フィリップス』。米国の貨物船マースク・アラバマ号がソマリアの海賊に襲撃された、2009年の事件を映画化したものです。フィリップス船長の手記を元にした映画では、船長が単身海賊の人質となってから海軍特殊部隊に救出されるまでに焦点が当たっていますが、そもそも貨物船を海賊に乗っ取られずに済んだのには、ある男の活躍が大きかったのです――。

海賊が跋扈する無法海域

 地中海からスエズ運河を通り、紅海を抜けると、アラビア半島南岸とアフリカ大陸との間にアデン湾が広がる。このアデン湾は、年間およそ3万隻の商船が通過する海運の要衝なのだが、1990年代後半以降、海運の大きな脅威となっているものがある。

 ソマリアの海賊だ。

 2008年には111件の襲撃があり、うち42件で乗っ取りが成功した。2010年も少なくとも35隻の船を奪い、650人以上の人質を取っている。海賊は乗っ取った船を自分たちの「母船」とし、そこから高速の小型船を使って商船を襲撃する。
 海賊行為は彼らにとってビッグビジネスだ。たいていの場合は身代金が支払われるので、海賊はその金で贅沢な生活を送れる。1日の平均収入が2ドル足らずという世界有数の貧困国ソマリアでは、なかなか味わえない贅沢なのだ。

乗っ取られたはずの台湾漁船が

 2009年4月8日、フィリップス船長ほか20人が乗った米国船籍のコンテナ船、マースク・アラバマ号はジブチからケニアに向かう3400キロの航海の途上にあった。1万7000トンの貨物(うち5000トンはソマリア、ウガンダ、ケニア向け救援物資)を積んだアラバマ号は、ソマリアのエイル港の南東440キロを航行していた。
 その週はすでに5隻の船が海賊に襲われていたが、アラバマ号はまもなくこの最も危険な水域から抜け出るところだった。

本当にあった 奇跡のサバイバル60

 岩に挟まれた自分の腕を切り落として脱出した登山家、8年間地下室に監禁された少女、ヒッチハイカーを乗せたら身ぐるみをはがされて不毛の荒野に放置された男、難破した船上でくじ引きで負けた仲間を食べて生き残る男たち……。
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