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家族により良い暮らしを送らせたいと、中東の産油国へ出稼ぎに行くアジアの人々。お金と引き換えに失うのは、愛する人との絆や触れ合いだ。

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祖国を離れて 出稼ぎ労働者の愛と孤独

家族により良い暮らしを送らせたいと、中東の産油国へ出稼ぎに行くアジアの人々。お金と引き換えに失うのは、愛する人との絆や触れ合いだ。

文=シンシア・ゴーニー/写真=ヨナス・ベンディクセン

 アラブ首長国連邦で最も人口の多い都市ドバイ。そこで出稼ぎ労働をするフィリピン人夫妻に取材をした。

 何週間にもわたる取材の間に、たった一度だけ妻のテレサが涙を見せたことがある。フィリピンにいた10年余り前のことを話していたときだ。テレサの実家は首都マニラから1時間ほどの郊外にある。12月のある日、自宅の近所を歩いていて、テレサはふと気づいた。どの家にもクリスマスの電飾が美しく輝いているのに、「うちの家だけ、飾りがなかった」。そう話す顔がみるみるゆがみ、涙があふれた。

「外国のことはよく聞いていました。外国に行けば、何でも買えると」
 金のブレスレット、米国製の練り歯磨き、コンビーフの缶詰……外国にはきらびやかな商品があふれているようだった。テレサが暮らす町では、石造りの家は外国で稼いだお金で建てた“出稼ぎ御殿”だ。しかし、11人きょうだいの1人として彼女が生まれ育ったのは木造のあばら家で、豪雨で家の壁が崩れたこともあったという。
「その年のクリスマスを迎える頃、私は家の前に立って誓ったんです。自分が稼げるようになったら、真っ先にクリスマスの電飾を買おうと」

 初めての給料は地元で稼いだ。そのときテレサは高校を出たばかり。買えたのは色つきの電球をつないだ飾り1本きりだったが、壁にくぎを打って自分でそれを取りつけた。
「誰の手も借りずにやりました。家の前に立って、輝く電飾を見て、私にもできるんだと強く思いました」
 その晩、テレサは外国に出稼ぎに行く決心をした。もう大丈夫、何があっても頑張れる、と。

出稼ぎ労働者が築いたドバイの超高層ビル群

 21世紀の外国人労働者の実態をまざまざと見せてくれる都市は、ペルシャ湾岸にある。ドバイのだだっ広い国際空港に降り立てば、空港前のタクシー乗り場まで歩く間に、外国人労働者をゆうに100人は見かけるはずだ。
 空港内のスターバックスでエスプレッソをいれる若い女性はフィリピン人かナイジェリア人だろう。トイレの掃除をするのはネパールかスーダンの出身者。タクシーの運転手はおおかたパキスタン北部かスリランカ、あるいはインド南部のケーララ州からの出稼ぎ人だ。

 ドバイの街に林立する超高層ビル群も、出稼ぎ労働者――主にインド、ネパール、パキスタン、バングラデシュなど南アジアの出身者――の労力で建てられた。日が暮れると、労働者たちはビルの建設現場からバスで宿舎まで運ばれる。彼らのほとんどは、刑務所並みに窮屈な宿舎で共同生活を送らなければならない。

 夫婦で同じ屋根の下に暮らせるテレサ夫妻はまだしも恵まれているほうだ。そればかりか、家族全員が一緒に暮らしていた時期もある。出稼ぎ労働者なら誰でもうらやむ境遇だったが、4番目の子が生まれると、それも難しくなった。夫は前妻との間にできた子をフィリピンに残しており、テレサとの間にできた上の子ども2人も祖国へ帰す決心をした。

 今、テレサは上の2人と会えないことをどう思っているのか。そのことに触れるたびに、表情がこわばり、身じろぎもしなくなった。
「とてもつらい」
 そうつぶやいてから、自分に言い聞かすように続ける。
「あの子たちは妹がちゃんと育ててくれています。それに、向こうにいれば、フィリピン人として育ってくれますしね」

※ナショナル ジオグラフィック2014年1月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 ナショナル ジオグラフィック誌には珍しく、本文は妻子ある男性と独身女性の恋の物語です。2011年6月号「幼き花嫁たち」なども手がけた筆者シンシア・ゴーニーは、人々に寄り添いながら丁寧に取材するジャーナリストで、今回の特集でもその本領を発揮しています。ぜひ本誌で読んでみてください。写真家集団マグナム・フォト所属のヨナス・ベンディクセンによる写真からは、祖国を離れて働く出稼ぎ労働者たちの厳しい現実が伝わってきます。(編集T.F)

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