西部劇でおなじみの、風に吹かれて転がる枯れ草。実はロシア原産の外来種だが、迷惑なほどの繁殖力で各地にはびこり、人々を困らせている。

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米国西部にはびこる 転がる雑草

西部劇でおなじみの、風に吹かれて転がる枯れ草。実はロシア原産の外来種だが、迷惑なほどの繁殖力で各地にはびこり、人々を困らせている。

文=ジョージ・ジョンソン/写真=ダイアン・クック、レン・ジェンシェル

 西部劇などで無人の路上や空き地を、一陣の風とともにコロコロと転がっていく枯れ草を目にしたことがあるだろうか。タンブルウィード、すなわち「回転草」と呼ばれるこの雑草は、米国の西部ではよく目にする植物だ。

 分類上はオカヒジキ属の一種(学名Salsola tragus )で、ハリヒジキとも呼ばれる。もともとはユーラシア大陸の植物で、ウラル山脈の東に広がる草原地帯に生えていた。

 だが、外来種としてよその土地にいったん持ち込まれると、この草は驚異的な繁殖力を示し、分布域を広げていった。冬が来て枯れると茎がもろくなり、風のひと吹きで根元から折れる。あとは風に吹かれて転がり続けるうちに、トゲだらけの茶色い塊と化し、時に民家を埋もれさせ、牧場では激しい火災の元になる。文字通りの厄介者だ。
 小型車ほどの大きな塊になるものもあり、何キロも移動する間に最大25万個もの種を至るところにまき散らす。その種は、次の侵略に向けて地中で待機するのだ。

 この雑草には葉らしきものが見当たらないが、実際には苞(ほう)と呼ばれる小さなとがったうろこ状の葉をつけている。そして、苞と茎の間のくぼみの中に咲く、やっと見えるくらいに小さい花が、種を実らせる。
 一つひとつの種の内部には、らせん状の胚が潜み、昼間の気温が0℃を超えればすぐに発芽しようと準備している。周囲にごくわずかでも水分があれば、回転草は成長を始め、最大で地下2メートルの深さまで根を張る。

 晩秋になると、十分に成長した回転草は大量の種をつける。そこへ晩秋の西部に特有の強風が吹きつけると、回転草は根元から折れ、地面を転げ回って種をまき散らす。豊かな土壌でもやせた土地でも、湿った場所でも乾燥地でも、粘土質でも砂地でも、土壌がアルカリ性でも酸性でも、この雑草はチャンスを逃さない。すきやシャベル、牛のひづめで地面が耕され、緩んでさえいれば回転草は発芽する。

 その広がりを食い止めようと、米農務省の科学者はロシアやウズベキスタン、トルコの研究者の協力を得て、ダニ、ゾウムシ、ガ、菌類など、もともとの生息地で回転草を食べていた生物を使った実験を何年も続けている。天敵を活用したこのような「生物的防除」の仕組みを導入すれば、「広い地域でこの雑草の数を無害なレベルにまで減らす効果が期待できます」と、研究者の一人リンカーン・スミスは強調した。

 もっとも米政府はまだ、これらの天敵を野外に放つことは許可していない。このような政府の慎重な姿勢は、間違ってはいないだろう。
 ただ、もっと早く適切な手段を講じていれば、回転草の広がりを阻止できたのではないか、という思いはある。今のところ、連中の真の敵は私たち人間だけだ。

※ナショナル ジオグラフィック12月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 タンブル・ウィード。別名、回転草。聞き慣れない名前かもしれませんが、写真を見れば「ああ、あれか」とわかる人は多いでしょう。枯れた後に根元から折れ、風に吹かれてコロコロ転がり、分布を広げていく雑草です。米国西部のイメージを体現する存在ですが、実はほんの150年ほど前にロシアの草原地帯から米国に入ってきた植物なのだとか。その類いまれな繁殖力に翻弄される人々の姿を記事は伝えます。大きいものは小型車ほどにもなる丸い塊が、何十、何百も積み重なるのだから壮観です。
 掲載した10枚の写真が映し出すのは、すべて枯れた雑草。茶色っぽく生気をまったく感じさせない姿であるにもかかわらず、なぜか強烈な存在感をもって迫ってくるから不思議です。129ページに掲載したモニュメント・バレーの写真など、プリントして壁に飾りたいなとさえ思いました。砂紋の刻まれたオレンジ色の砂丘と、幾層にも重なる雲の間で、ただそこにあるだけの回転草。どうにもならない不条理さを感じさせる風景を見ていると、小さい頃に読んだ手塚治虫の『火の鳥』のワンシーンを思い出します。(編集N.O)

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