厳しく統制された北朝鮮で、真の姿をとらえるのは容易ではない。長期にわたる取材で、閉ざされた社会の“無防備な瞬間”を拾い集めた。

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[明らかにする/REVEAL]北朝鮮 見え隠れする素顔

厳しく統制された北朝鮮で、真の姿をとらえるのは容易ではない。長期にわたる取材で、閉ざされた社会の“無防備な瞬間”を拾い集めた。

文=ティム・サリバン/写真=デビッド・グッテンフェルダー

 北朝鮮で取材を進めていると、長らく孤立を続けてきた国の内部を垣間見る貴重な機会にめぐりあうことがある。戸惑うことも多いが、はかない記憶のかけらを一つずつ拾い集め、この国の全体像を組み立てつつある。

 実際、取材の目的地よりも、移動中に見た光景のほうが真実を物語っていることが多い。たとえば、バスの運転手がたまたま平壌(ピョンヤン)の大通りを外れ、暗い建物が並ぶ、穴だらけの狭い道に入ったとき。あるいは夜、古ぼけた高層マンションの、裸電球のかすかな明かりで照らされた部屋を目にしたとき。そんな瞬間に、北朝鮮の無防備な素顔を知ることができた。思いきって平壌を離れ、モダンな高層ビルがない都市を訪れたとき、商店に入ると店内は薄暗く、陳列棚は半分しか埋まっていなかった。

 もちろん、北朝鮮当局が見せたいのはそんな現実ではない。栄養十分で幸福な子どもたちばかりの学校、棚に商品がぎっしり並んだ店、国中にあふれる金一族への忠誠心。そんな姿を世界に披露しようと躍起になっている。

 住民たちは記者に何を話すべきかよく知っていて、現実味のないお決まりの誇張表現で、指導者への称賛をまくしたてる。ある日、平壌にできた北朝鮮初のミニゴルフ・コースで、北東部の農村からやって来たキム・ジョンヒという51歳の主婦に会った。そのときに聞いたのは、こんな言葉だ。

「『敬愛する金正恩(キム・ジョンウン)将軍』の温かい愛のおかげで、私のような田舎者でもここへ来てミニゴルフを楽しめるんですよ」

 こんな話を何度も聞かされた後では、北朝鮮の人々を全体主義体制のロボットとして描く風刺画を信じそうになる。難しいのは、それよりもとらえどころのない、平凡な現実を発見することだ。時には、人々が心を開いてくれそうな話題を見つけなければならないこともある。

平壌市民の心をつかんだ『風と共に去りぬ』

 たとえば『風と共に去りぬ』がそうだ。北朝鮮の人々は77年前に米国で出版されたこの小説に魅了され、南北戦争という内戦の物語と、二度とひもじい思いはしないと決意した主人公の姿に自らの運命を重ね合わせている。北朝鮮では朝鮮戦争の死者・行方不明者が100万人を超え、1990年代の飢饉(ききん)で数十万人が死亡したと推定されている。政府は90年代半ば、なぜかこの本を翻訳させた。ちょうどソ連の支援を失った北朝鮮が深刻な危機に陥り、大規模な飢饉が発生した時期だ。

 検閲の目を逃れる娯楽がほとんどない国で、この小説は首都の住民たちの心をつかんだ。今や、平壌で『風と共に去りぬ』を読んだことがない大人を見つけるのは難しい。
 この本は米国女性がひどい扱いを受けている証拠だと言うのは、平壌の図書館「人民大学習堂」の案内係。開城で会った横柄な役人は、反資本主義の教訓物語だと解釈していた。不幸な結婚生活を送るある女性は、主人公スカーレット・オハラの姿に人間の強さを感じたと話す。

 凍えるような寒さの夜、花火見物を楽しむ市民にも出会った。安っぽい木綿のコートを着込み、地べたに座って空を見上げる中年女性たちの姿からは、人々の強さが伝わってくる。
 平壌の住民は知識欲も旺盛だ。ここでは停電は珍しくないのだが、そんな夜に市街地を車で走っていると、数十人が街灯の下に立ち、新聞を読んだり学校の宿題をしたりしているのを見かける。そして、見せかけの演出の裏側で庶民の素顔を垣間見ることも少なくない。

※ナショナル ジオグラフィック10月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 撮影を担当したのは、2011年12月号の「福島原発 避難の記憶」などを手がけたデビッド・グッテンフェルダーです。AP通信の写真家でもある彼は、2012年以降、25回も北朝鮮を訪れて、閉ざされた国の現実を追ってきました。
 当局のガイドに一挙一動を監視されているため、自由に撮らせてはもらえないそうですが、それでも彼の写真には、よくある北朝鮮の写真と違ったところがあります。たとえば、平壌のスタジアムに集まった兵士たちの写真。よく見ると、腕組みする人、談笑する人、足を組む人、遠くを見ている人など、しぐさや表情が一人ひとり違います。典型的な北朝鮮の光景のなかに見え隠れする「素顔」を探してみてください。(編集T.F)

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