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写真の力

ナショナル ジオグラフィックの写真家たちはカメラを手に未踏の土地へ出かけ、知られざる事実を写真で伝えてきた。そして今、写真は世界を変える力となる。

文=ロバート・ドレイパー

 写真には、人の心を動かし、世界を変える力がある。
 ありのままの真実を目に見える形で示すことで、悪と戦う武器にもなれば、未知の世界への扉を開いてもくれる。創刊125周年を記念する今回の特別号では、「目撃する」「証明する」「つながる」「明らかにする」「賛美する」「保護する」というキーワードのもとに、そんな写真のパワーを伝える、とっておきの特集をお届けする。

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 写真の技術が発明され、普及したのは19世紀の出来事だ。
 そして今から125年前、1888年にナショナル ジオグラフィック誌は創刊された。地理知識の向上と普及を目指すまじめな協会の会報とあって、当初の誌面は文章ばかり。写真とは無縁の地味な雑誌だった。

 やがて、ナショナル ジオグラフィック協会の探検家たちはカメラを使い始めた。世界各地から持ち帰った写真の数々が、誌面を飾り、読者のものの見方や、時には人生すら変えてしまう。写真はこうして、この雑誌の最大の売りとなっていった。

 世界には現在おびただしい数の写真があふれ、膨大な数の画像が刻々とインターネットに流れ込む。至るところにカメラの目が光る、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』さながらの監視社会が到来したのだ。
 そんな現代にあっても、偉大な写真は見慣れた世界を一変させ、目にした者は二度と世界を以前と同じように見ることができなくなる。ナショジオ誌の写真家たちが生み出す傑作写真には、私たちを未知の世界へと連れて行く力がある。

憧れの職業「ナショジオの写真家」の実情は?

 私がナショジオ誌の仕事に携わっていると言うと、誰もが驚き、興味を示す。
 やむを得ず、「といっても、ただの書き手なんですけどね」と言い添えたときの反応も、予想がつく。この雑誌の写真家と言えば世間では、美を求めて世界中を旅してまわる、誰もがうらやむ職業に就いている人間のことだ。映画『マディソン郡の橋』を見ればよくわかる。

 だが、この雑誌の写真家と何度も一緒に仕事をしてきた私自身は、彼らをうらやましいと思ったことはない。荷物の重量オーバー、悪天候、撮影許可の不備などの障害が撮影にはつきものだ。骨折したり、マラリアにかかったり、投獄されたりといった災難にも事欠かない。家族と過ごす休暇や誕生祝い、子どもの学芸会もそっちのけで、何カ月も家を留守にするのが当たり前。敵意に満ちた取材先の国で悪戦苦闘したり、樹上で1週間過ごしたり、昆虫を食べる羽目になったり。どんな悲惨な状況も平然と受け入れる彼らの胆力には、いつもつくづく感嘆する。

 取材先ではよく、写真家たちが何日も何週間も、被写体とともに過ごす姿を目にした。相手の話に耳を傾け、世界に伝えるべき物語を見きわめてから、ようやくカメラを構える。北欧の遊牧民サーミの村や、ニューギニアの野鳥の楽園など、容易には入り込めない世界で何年間も過ごす写真家もいる。やらせの写真でお茶を濁さず、撮る側と撮られる側の心が通い合った写真を目指すのだ。

 ジョー・ローゼンタールが撮った硫黄島にはためく星条旗や、アポロ8号の宇宙飛行士が撮影した青く輝く地球。そんな「世紀の一枚」を撮りたいと、プロの写真家なら誰しも願うだろう。だが、ナショジオ誌の写真家たちが追い求めるのは、そうした「歴史的瞬間」ではない。読者の心に最も深く刻まれた一枚は、歴史上の大人物の写真でも、大事件の写真でもない。それは1984年、写真家のスティーブ・マッカリーがパキスタンの難民キャンプで出会ったアフガニスタンの少女の写真だった。

 翌年6月号の表紙を飾った12歳の少女、シャーバート・グーラーの緑の瞳は、有能な外交官が束になってもかなわない大きな力で世界を揺り動かした。少女のまなざしは私たちの心に深く刺さり、日ごろはアフガニスタンに無関心な世界を立ち止まらせたのだ。私たちは少女の訴えをたちまち理解し、手を差し伸べずにはいられなくなった。
 日々膨大な数の写真が氾濫する今の世界でも、彼女のまなざしは受け手に届き、メッセージを伝える力をもっているだろうか? その答えは明白だと、私は思う。

※ナショナル ジオグラフィック10月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 まじめな協会の、まじめな会報として創刊されたナショジオ誌。それがこうして125周年を迎えることができたのは、まさに写真がもつパワーのおかげでしょう。この雑誌の草創期に、「写真を積極的に載せていこう」という“運命の決断”を下したのは、編集長のギルバート・ハビー・グロブナーでした。後年に日本を訪れたグロブナーの写真が、今月号の「日本の百年」に登場していますので、そちらもぜひご覧ください。(編集H.I)

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